記事に載せる可換図式を作るメモ

はてなブログに載せるための、可換図式の画像を作成する方法をメモ。

はてなブログでは、可換図式を書くのも一苦労で、ちょっとまともな可換図式を書こうとするたびに、次の手順をふんでいた。

  1. \LaTeX 上で xymatrix を使って図式を書く
  2. latex(正確には platex)でコンパイル
  3. dvips あるいは dvipdfmx で変換
  4. Gimp で切り抜き

これがもう、非常に面倒臭い。
特に Gimp で切り抜きなんて、本当にやってられない。

一方、metapost を使うと、直接 Bounding Box の情報付きの PostScript ファイルが得られるけれど、言語の汎用性が高すぎて、逆に「可換図式を書く」という観点では使いにくい。
xymatrix に慣れすぎているせいもある。

ならば、metapost 内で xymatrix を使ってしまえば良いというのがアイデア

prologues:=3
verbatimtex
%&latex
\documentclass{article}
\usepackage[all]{xy}
\begin{document}
etex;
beginfig(1);
  label.urt(btex $$\xymatrix{T^2X \ar[r]^{\mu T} \ar[d]_{T\mu} & TX\ar[d]^\mu \\ TX \ar[r]^\mu & X}$$ etex, (0,0));
endfig;
end.

これを diag.mp とかいう名前のファイルとして

mpost diag.mp
convert -density 600 -geometry 100% -alpha off diag.1 diag.png

とかすると、diag.png というファイルが出来上がって、こんな感じ:
f:id:junology:20140121213410p:plain:w200

しかし、この方法だと metapost が台無しだ。

追記

複数の図式があって、図式全体の大きさではなくて、図式中の数式のフォントサイズを揃えるようにしたいならば、

less diag.1

として、Bounding Box の情報を確認する。
二行目に

%%BoundingBox: ほげほげ

みたいな記述があり、「ほげほげ」の所に四つ数字が並んでいる。
多分左から順に 左端 上端 右端 下端 の座標になっている。

しかし、過去にアップロードした図式を利用する時、どうしたらいいかわからない。

スマホ歩きが本当に悪か検証

僕にとっては到底理解できぬことですが、日本でスマホが多数派となった昨今、皆様いかがお過しでしょうか。
スマホの流行とともに、巷では、スマホ画面から目が離せない人々の増加が問題視されている。
例えば、我が父曰く「ぶつかりそうになった」

しかし、自分の生活を振り返ってみると、歩道で一番厄介なのは、向かい側から来る人と目があっちゃった時だと思うんだ。
むしろ、相手がスマホに熱中していてくれると、歩行の軌道が読み易くて助かるのだが、これは少数派なのかな。
いや、そうではないと信じて、ちょっとスマホ歩きをする人の割合の最適値を算出。


\alpha:スマホ歩きで周囲が見えなくなってる人の割合
q:周りが見えてる人同士が衝突する確率
a:人と人が衝突した時の損害を表す定数
b:人が人を避けるのに要する労力を表す定数

ルール:

  1. 一本道を人が両側から歩いてくる設定
  2. スマホ歩きしていない人は、全て周りに十分注意を向けていると仮定
  3. スマホ歩きする人同士なら、絶対衝突(損害 a
  4. スマホ歩きする人と周りが見えてる人なら、絶対回避(損害 b
  5. 周りが見えてる人同士なら、確率 q で衝突(損害 aq+b)(何故 aq+2b でないかというと、双方が回避しようとするので、労力は半分になるから)


このルールで進めると、損害の期待値は

a\alpha^2 + b\alpha(1-\alpha) + (aq+b)(1-\alpha)^2
=a(1+q)\alpha^2 - (2aq+b)\alpha + (aq+2b)

となり、今回は、これを最小にする \alpha を求めたい。
勿論 0\le\alpha\le 1 だが、とりあえずその条件を忘れて、最小値を与える \alpha を求めてみると、二次式に関する簡単な考察により

\alpha=\frac{2aq+b}{2a(1+q)}=1-\frac{2a-b}{2a(1+q)}

ここで、\alpha>0 であるならば、スマホ歩きする人が一定数いた方が良いことになる。
そのための必要十分条件

2a-b < 2a(1+q)

だが、冷静に考えれば、b, q は非負なので、この条件は常に成立することになる。
よって、スマホ歩きは必要悪だという結論になる。


では、具体的には、どれくらいいた方が良いのか。
道で、向いから来る人と目があってしまった場合、取れる選択肢は、「右」「左」「直進」のどれかなので、q=1/3 を仮定してみる。
また、人と「ぶつかる」というのは、避ける労力に対して、どれだけイヤか、ということを考えて、比例係数 k を用いて a=kb と書くことにする。
すると、上で求めた \alpha の式に代入して

\alpha=\frac{\frac{2}{3}kb+b}{2kb(1+\frac{1}{3})}=\frac{2k+3}{8k}=\frac{1}{4}+\frac{3}{8k} > \frac{1}{4}

となり、驚くべきことに、少なくとも、全人口の四分の一はスマホ歩きをしていた方が良いことになる。


ただし、以上の議論では、歩道において、人と人が一対一ですれちがう際の利得収支を計算しただけであり、車との関係や、混雑した場所での現象は、一切考慮されていないので注意されたし。
逆に言えば、人通りのあまり多くない、住宅街などについては、有効なモデルのつもり。
スマホしてると、電柱にぶつかる?
知ったことではない。

群の分解拡大まとめ 3.半直積の間の群同型

(この回に関しては、きちんとした文献を参照している訳ではないので、とんでもないデタラメになっている可能性があります。鵜呑みにはしないで下さい。また、少しでも誤りを見つけたら、コメントにて指摘して下さるとありがたいです。)

群の分解拡大まとめ 1.分解拡大と半直積 - junologyのブログ
群の分解拡大まとめ 2.半直積と自己同型 - junologyのブログ
の続き。
前回までで、具体的に分解型完全列と、群作用との間に一対一対応を与えたのだった。
ところで、これまで、H,Q の拡大や、半直積 G=H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\, Q,\,G'=H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\, Q の間の「同型」は、H,Q の上で恒等的であるもののみを考えてきた。
しかし、実際上の問題としては、単に f が群の同型になるかどうかが問題になることの方が多い。
そこで、今回はこの問題について取り組んでみたい。

今まで、半直積の記号 H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\, Q が大変紛らわしかったが、前回ついに、半直積と群作用の間の対応関係が証明できたので、それを用いて表記法を改善する。
以下では、群作用 \rho:Q\to\mathrm{Aut}(H) に対応する H,Q の半直積を H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}_{\rho}\,Q と書く。
これは、前回証明したように、H,Q,\rho により(半直積の同型の差を除いて)一意に決定されるものである。
h,h'\in H,\,q,q'\in Q に対して、H\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{\rh}\,Q 上の積は hqh'q' = h\rho(q)(h')qq' で与えられる。

今回は、二つの作用 \rho_1,\rho_2:Q\to\mathrm{Aut}(H) が与えられた時、H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}_{\rho_1}\,Q, H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}_{\rho_2}\,Q が群として同型になるための条件を調べる。

それから、多分 Latex コードの取り扱いの影響なんだろうが、長いコードは解釈されなくなってしまうので、字数節約のため、短完全列の両端の 1\to\dots\to1 は、以下では省略することにする。

半直積の準同型の条件

まずはじめに、半直積の間の写像が、いつ準同型になるかを調べておく。

命題3.1
準同型 \phi:H\to H,\,\psi:Q\to Q が与えられたとする。
写像 f:H\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{\rh}\,Q\to H\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{\rh'}\,Q を次のように定める。
f(hq)=\phi(h)\psi(q)
この時、f準同型であるための必要十分条件は、任意の h\in H,\,q\in Q に対して \phi(\rho(q)(h))=\rho'(\psi(q))(\phi(h)) が成立すること。

(証明)
必要性を示す。
任意に h\in H,\,q\in Q をとる、
f準同型の時、H正規部分群であることに注意すると、次が成立することがわかる。
\phi(qhq^{-1})=f(qhq^{-1}) = f(q)f(h)f(q)^{-1} = \psi(q)\phi(h)\psi(q)^{-1}
従って、半直積上での積より
\phi(\rho(q)(h))=\rho'(\psi(q))(\phi(h))
を得る。
これが示すべきことだった。

十分性を示す。
任意に h,h'\in H,\,q,q'\in Q をとる。
すると
\beg{align}f(hqh'q') &= f(h\,\rho(q)(h')\,qq')\\&= \phi(h\,\rho(q)(h'))\psi(qq')\\&= \phi(h)\phi(\rho(q)(h'))\psi(q)\psi(q')\end{align}
ここで、仮定の条件より
\beg{align}f(hqh'q')&=\phi(h)\,\rho'(\psi(q))(\phi(h'))\,\psi(q)\psi(q')\\&=\phi(h)\left(\psi(q)\phi(h')\psi(q)^{-1}\right)\psi(q)\psi(q')\\&=\phi(h)\psi(q)\phi(h')\psi(q')\\&=f(hq)f(h'q')\end{align}
よって、f準同型である。
(証明終)

ここで、H\tim\!\raise{1pt}{\tin\mid}_{\rh}\,Q は集合としては H\times Q と同一視できることを思いだすと、上の状況の時、f は次の図式を可換にする唯一の写像である:

\beg{array}{ccccc}H&\to&H\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{\rh}\,Q&\to&Q\\\phi\dow&&f\dow&&\psi\dow\\H&\to&H\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{\rh'}\,Q&\to&Q\end{array}

また、5-lemma より、\phi,\psi が同型写像ならば、f も同型写像である
逆に、写像 f の作り方から、f が同型ならば、\phi,\psi も同型になる。
(注:後者は分解型完全列に特有の性質で、一般の完全列に対しては成立しない)
この議論より、次を得る。

系3.2
次の群準同型の可換図式が与えられたとする。

\beg{array}{ccccc}H&\to&H\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{\rh}\,Q&\to&Q\\\phi\dow&&f\dow&&\psi\dow\\H&\to&H\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{\rh'}\,Q&\to&Q\end{array}

この時、f が同型であるための必要十分条件は、\phi,\psi が同型であること。
さらにその時、任意の q\in Q に対して、\rho,\rho' は次式を満たす。
\rho'=\phi\circ[\rho\circ\psi^{-1}](q)\circ\phi^{-1}
特に、\rho' は一意に決定される。

逆に、\phi,\psi が同型で、任意の q\in Q に対して \rho'=\phi\circ[\rho\circ\psi^{-1}](q)\circ\phi^{-1} を満たすならば、上の図式を可換にするような f が唯一存在する。

(証明)
\rho,\rho' の満たすべき式以外は、命題3.1と上の議論で示されている。
よって、\phi,\phi' が同型の時、命題3.1の条件と、式
\rho'=\phi\circ[\rho\circ\psi^{-1}](q)\circ\phi^{-1}
が同値であることを示せば良い。
命題3.1の条件
\phi(\rho(q)(h))=\rho'(\psi(q))(\phi(h))
に対し、\phi,\psi が同型であることより、h のかわりに \phi^{-1}(h) を代入して整理すると
[\phi\circ\rho(q)\circ\phi^{-1}](h)=\rho'(\psi(q))(h)
これが、任意の h\in H で成立するので、つまり写像 H\to H として
\phi\circ\rho(q)\circ\phi^{-1}=\rho'(\psi(q))
である。
q のかわりに \psi^{-1}(q) を代入して、求める式を得る。
これを下からたどることにより、逆もわかる。
(証明終)

自己同型の \mathrm{Hom} への作用

一般に、群 G,G' について、群 \mathrm{Aut}(G) は集合 \mathrm{Hom}(G',G) に、合成によって左から自然に作用している。
つまり、f:G'\to G,\,\eta\in\mathrm{Aut}(G) に対し、\eta f=\eta\circ f として作用している。
例によって、この作用を G\to\mathrm{Inn}(G)\to\mathrm{Aut}(G) を合成して、G の作用だと思う。
これにより、以下 g\cdot f=[x\to gf(x)g^{-1}] のように書いてしまう。

また、同様に \mathrm{Aut}(G')\mathrm{Hom}(G',G) に右から作用している。
ただし、ここでは、こちらは G' が内部自己同型を介して作用しているのではなく、あくまで \mathrm{Aut}(G') そのものが作用しているものと思うことにする。
これらの作用は、所詮合成に過ぎないので、任意の \eta\in\mathrm{Aut}(G),\,f\in\mathrm{Hom}(G',G),\,\psi\in\mathrm{Aut}(G') に対して (\eta\cdot f)\circ\psi=\eta\cdot(f\circ\psi) を満たしている。
つまり、\mathrm{Hom}(G',G)(G,\mathrm{Aut}(G')) の両側作用を持つ。
すると、系3.2 は次のように言いかえられる。

系3.2(言いかえ)
次の群準同型の可換図式が与えられたとする。

\beg{array}{ccccc}H&\to&H\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{\rh}\,Q&\to&Q\\\phi\dow&&f\dow&&\psi\dow\\H&\to&H\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{\rh'}\,Q&\to&Q\end{array}

この時、f が同型であるための必要十分条件は、\phi,\psi が同型であること。
さらにその時、\rho,\rho'\in\mathrm{Hom}(Q,\mathrm{Aut}(H)) は次式を満たす。
\rho'=\phi\cdot\rho\circ\psi^{-1}
特に、\rho' は一意に決定される。

逆に、\phi,\psi が同型で、\rho'=\phi\cdot\rho\circ\psi^{-1} ならば、上の図式を可換にするような f が唯一存在する。

これにより、本稿の主結果がただちに従う。

定理3.3
分解拡大問題(問題B)の二つの解
H\to H\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{\rh}\,Q\to Q
H\to H\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{\rh'}\,Q\to Q
が、短完全列として同型であるための必要十分条件は、\rho,\rho'\mathrm{Hom}(Q,\mathrm{Aut}(H))(\mathrm{Aut}(H),\mathrm{Aut}(Q))-両側作用による同じ類に属すこと。
すなわち、ある \phi\in\mathrm{Aut}(H),\,\psi\in\mathrm{Aut}(Q) が存在して、\rho'=\phi\cdot\rho\circ\psi とできること。

系3.4
分解拡大問題(問題B)の解の、短完全列としての同型類と、\mathrm{Hom}(Q,\mathrm{Aut}(H))(\mathrm{Aut}(H),\mathrm{Aut}(Q))-両側類
\mathrm{Aut}(H)\backslash\mathrm{Hom}(Q,\mathrm{Aut}(H))/\mathrm{Aut}(Q)
の元は一対一に対応する。

注意すべきは、これらの結果だけからは、半直積自身の同型類が決定できるかどうかはわからないということ。
例えば、H\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{\rh}\,Q\to H\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{\rh'}\,Q なる同型があっても、QH を混ぜるようなものに関しては、上の議論は適用できない。

計算例:巡回群の半直積

簡単な場合、特に H,Q がともに巡回群の場合について計算してみる。
以下では、C_nn次の巡回群とする。
また、C_n の生成元を明示したい時には、C_n\langle a\rangle のように書く。

まず、良く知られているように、\mathrm{Aut}(C_n)\simeq(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\tim} の同型がある。
この同型のもと、(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\tim}C_n の指数部分へのかけ算として作用している(e.g. a\in C_n,\,k\in (\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\tim} ならば k\cdot a = a^k)。
ここで、(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\tim} は、環 \mathbb{Z}/n\mathbb{Z} の可逆元のなす乗法群(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} の単数群)である。
つまり、\mathrm{Aut}(C_n) は可換である。
この時、次が使える。

命題3.5
G,G' が群であり、G は可換であるとする。
この時、G の集合 \mathrm{Hom}(G,G') への作用(前項で定めたもの)は自明である。

(証明)
G が可換であることより、\mathrm{Inn}(G)=1.
つまり、G\to\mathrm{Aut}(G) は自明な準同型である。
よって結果が従う。
(証明終)

つまり、\mathrm{Aut}(C_n)\mathrm{Aut}(C_m,\mathrm{Aut}(C_n)) への左作用は自明なので、無視して良く、次を得る。

系3.6
H,Q は群で、\mathrm{Aut}(H) は可換であると仮定する。
この時、分解拡大問題(問題B)の解の、短完全列としての同型類と、\mathrm{Hom}(Q,\mathrm{Aut}(H))\mathrm{Aut}(Q)-類
\mathrm{Hom}(Q,\mathrm{Aut}(H))/\mathrm{Aut}(Q)
の元は一対一に対応する。

次に、群の表記法に関して。
準同型 \rho:C_m\to\mathrm{Aut}(C_n) が与えられた時、これは巡回群の性質から、C_m の生成元 a\in C_m の像 \rho(a) によって、一意に決定される。
つまり、\rho:C_m\to\mathrm{Aut}(C_n)\mathrm{Aut}(C_n) の元だと思っても良い。
ただし、1=\rho(a^m)=\rho(a)^m\in\mathrm{Aut}(C_n) なので、特に \rho\in\mathrm{Aut}(C_n) だと思った時には、\rho の位数は m の約数でなければならない。
さて、\rho\in\mathrm{Aut}(C_n) の位数が m の約数である時、
\langle\,a,b\,\mid\, a^n=b^m=1,\,bab^{-1}=\rho(a)\,\rangle
の形の群を考える。
今までの議論からわかるように、この群は C_n\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{\rh}\,C_m である。
逆に、C_n\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{\rh}\,C_m はこの形で表せる。

具体的に計算してみる。
なお、今回は半直積の表記法が定まったので、H\times Q と書いたら、群の直積だと思うことにする。
H\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{1}\,Q=H\times Q であることには注意する。

(n,m)=(7,3) の時

一般に、n=p が素数の時には、\mathrm{Aut}(C_p)\simeq(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\tim}=\mathbb{F}_p^{\tim} は、位数 p-1巡回群であることが知られている。
生成元は、p によりまちまちだが、p=7 では
\mathbb{F}_7^{\tim}=C_6\langle 3\rangle=C_2\langle 6\rangle\times C_3\langle 2\rangle
である。
準同型 \rho:C_3\to\mathrm{Aut}(C_7) は、\mathrm{Aut}(C_7)\simeq\mathbb{F}_7^{\tim}=C_2\langle 6\rangle\times C_3\langle 2\rangle の元で、位数が 3 の約数であるものと同一視できたので、その同一視のもとでは
\mathrm{Hom}(C_3,\mathrm{Aut}(C_7))=C_2\langle 2\rangle=\{1,2,4\,\pmod{7}\}
であり、分解拡大問題の解は、それぞれ
C_7\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{1}\,C_3\simeq C_7\tim C_3
C_7\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{2}\,C_3\simeq\langle a,b\,\mid\,a^7=b^3=1,\,bab^{-1}=a^2\rangle
C_7\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{4}\,C_3\simeq\langle a,b\,\mid\,a^7=b^3=1,\,bab^{-1}=a^4\rangle
の三つである。
さて、\mathrm{Aut}(C_3)\mathrm{Hom}(C_3,\mathrm{Aut}(C_7)) への作用はどうなっているか。
\mathrm{C_7} の場合と同じ議論をすると、\mathrm{Aut}(C_3)\simeq\left(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\right)^{\tim} = \{1,2\,\pmod{3}\} であり、C_3 に指数部で作用している。
つまり、「二乗する」という作用により生成される巡回群であり、\sigma:C_3\ni a\to a^2\in C_3 とおいて、\mathrm{Aut}(C_3)=\{1,\sigma\} である。
\{1,2,4\,\pmod{7}\} の各元に対応した \mathrm{Hom}(C_3,\mathrm{Aut}(C_7)) の元をそれぞれ \rho_1,\rho_2,\rho_4 と書くと、C_7 の生成元a\in C_7C_3 の生成元 b\in C_3 に関して
[\rho_1\circ\sigma(b)](a)=\rho_1(b^2)(a)=\rho_1(b)^2(a)=1^2\cdot a = a=\rho_1(b)(a)
[\rho_2\circ\sigma(b)](a)=\rho_2(b^2)(a)=\rho_2(b)^2(a)=2^2\cdot a = a^4 = \rho_4(b)(a)
[\rho_4\circ\sigma(b)](a)=\rho_4(b^2)(a)=\rho_4(b)^2(a)=4^2\cdot a = a^2 = \rho_2(b)(a)
が成立するので、
\mathrm{Hom}(C_3,\mathrm{Aut}(C_7))/\mathrm{Aut}(C_3)=\left\{\{1\},\{2,4\}\right\}
であり、C_7\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{2}\,C_3\simeq C_7\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{4}\,C_3 である。
具体的な同型写像は、命題3.1, 系3.2 により構成できる。
すなわち、
f:C_7\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{2}\,C_3\ni a^k b^l = a^k b^{2l}\in C_7\tim\!\raise{1pt}{\tiny\mid}_{4}\,C_3
が同型写像である。
これらによる可換図式は次の通り:

\beg{array}{ccccc}C_7&\to&C_3\tim\!\raise{1pt}{\tin\mid}_2\,C_3&\to&C_3\\\mid\mid&&f\dow&&\sig\dow\\C_7&\to&C_7\tim\!\raise{1pt}{\tin\mid}_4\,C_3&\to&C_3\end{array}

群の分解拡大まとめ 2.半直積と群作用

三回シリーズの二回目。
群の分解拡大まとめ 1.分解拡大と半直積 - junologyのブログ
群の分解拡大まとめ 3.半直積の間の群同型 - junologyのブログ

前回は、言ってみればインフラ整備だったが、今回は、実際に分解拡大問題を解く。

正規部分群の自己同型

アイデアは、一見つまらないように見える、次の言いかえである。

補題2.1
G を群、H を部分群とする。
H正規部分群であるための必要十分条件は、任意の \iota\in\mathrm{Inn}(G) に対して、\iota(H)\subset H であること。
ここで、\mathrm{Inn} は内部自己同型群を表す。

至極当たり前のことだが、これは重要な示唆を含んでいる。
\iota(H)\subset H ということは、\iota は、自己同型 \iota|_{H}:H\to H を誘導するということである。
勿論この誘導は合成を保つので、これにより、自然な準同型 \mathrm{Inn}(G)\to\mathrm{Aut}(H) が得られる。
自然な準同型 G\ni g\mapsto[x\mapsto gxg^{-1}]\in\mathrm{Inn}(G) を合成すれば、G\to\mathrm{Aut}(H) であり、各部分群 Q\subset G に対して Q\to\mathrm{Aut}(H) が得られたことになる。
この議論をまとめて、次の命題を得る。

命題2.2
G=H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\, Q とする(従って、H,Q\subset G と思って良い)。
この時、準同型 \rho:Q\to\mathrm{Aut}(H) が一意に存在して、任意の h\in H,\,q\in Q に対して、qhq^{-1} = \rho(q)(h) とできる。

半直積と群作用

命題2.2より、自然に定まる準同型 Q\to\mathrm{Aut}(H)(これを QH への群作用と呼ぶ)が、半直積に関するいくらかの情報を持っていることがわかる。
では、どの程度持っているか。
実は、半直積は、Q\to\mathrm{Aut}(H) によって、完全に決定される。

G=H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\, Q の時、任意の g\in Gh\in H,\,q\in Q によって g=hq と一意に表せるのだった。
このことにより、各 h,h'\in H,\,q,q'\in Q に対して、 hqh'q'=h''q'' と一意に書けなくてはいけないことになる。
ところで、命題1.3 の証明中でも示唆されているように、
hqh'q' = h(qh'q^{-1})qq'
なので、h''=h(qh'q^{-1}),\,q''=qq' である。
ここで、hqh'q^{-1} の積は、H 上の積なので、半直積の種類に依らない。
同様に、qq'Q 上の積なので、半直積とは無関係である。
従って、半直積上の積の個性は、全て qh'q^{-1} に集約されることになる。
ところが、命題2.2 で決まる群作用 \rho:Q\to\mathrm{Aut}(H) を用いれば、これは \rho(q)(h') である。

この議論を精密化すると、次が得られる。
系1.2 により、半直積 H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\, Q が、集合としての H\times Q に、適当な積を入れたものだと思えたことに注意する。

命題2.3
G=H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\, Q かつ G'=H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\, Q であると仮定する。
G,G' が半直積として一致するための必要十分条件は、命題2.2 による二つの群作用
\rho:Q\to G\to\mathrm{Inn}(G)\to\mathrm{Aut}(H)
\rho':Q\to G'\to\mathrm{Inn}(G')\to\mathrm{Aut}(H)
が一致すること。

(証明)
必要性は明らかなので、十分性のみ示す。
\rho=\rho' と仮定する。
G,G' をそれぞれ H\times Q に適当な積を入れたものと思い、G=(H\times Q,\cdot_1) 及び G'=(H\times Q,\cdot_2) とする。
すると、命題2.2 直前の議論から、任意の h,h'\in H,\, q,q'\in Q について、
\displaystyle (h,q)\cdot_1(h',q') = (h\rho(q)(h'),qq') = (h\rho'(q)(h'),qq') = (h,q)\cdot_2(h',q')
である。
つまり、\cdot_1=\cdot_2 である。
系1.2より、これは G, G' が半直積として同型であることを意味している。
(証明終)

命題2.3 により、半直積が Q\to\mathrm{Aut}(H) で完全に決定される、つまり、その半直積の誘導する準同型 Q\to\mathrm{Aut}(H) を見れば、異なる半直積を完全に区別できることがわかる。

作用から半直積を作る

では逆に、半直積がどれくらい存在するかはわからないものだろうか。
実は、そのアイデアは、上の議論の中に出ている。

命題2.4
QH への群作用 \rho:Q\to\mathrm{Aut}(H) を任意にとる。
この時、半直積 G=H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\, Q で、命題2.2 で決まる群作用が \rho と一致するものが存在する。

(証明)
集合 H\times Q 上の積 \cdot を次で定める。
(h,q)\cdot(h',q') = (h\rho(q)(h'),qq')
この積が、結合則を満たすことは、すぐに確かめられる。
これにより、(H\times Q,\cdot) は、単位元を (1,1)、逆元を (h,q)^{-1}=(\rho(q^{-1})(h^{-1}),q^{-1}) とする群になる。

G=(H\times Q,\cdot) とし、H, QH\times 1, 1\times Q\subset G をそれぞれ同一視する。
すると、H,QG の部分群である。
実際、(h,1)\cdot(h',1) = (hh',1),\,(1,q)(1,q')=(1,qq') が成立している。
以下、G=H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\, Q であることを示す。

まず H=H\times 1G正規部分群である。
実際、任意の h,h'\in H,\,q\in Q に対して
(h',q)^{-1}\cdot(h,1)\cdot(h',q) = (\rho(q^{-1})(h'^{-1}),q^{-1})\cdot(hh',q) = (\rho(q^{-1})(h'^{-1})\,\rho(q^{-1})(hh'),1)\in H\times 1=H
が成立している。

積の定義より、明らかに HQ=(H\times 1)\cdot(1\times Q)=G である。
また、集合論の基本的な事実より、H\cap Q=(H\times 1)\cap(1\times Q)=1\times 1 = 1 である。
以上より、G=H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\, Q を得る。

さらに、h\in H,\, q\in Q に関して
qhq^{-1} = (1,q)\cdot(h,1)\cdot(1,q^{-1})=(\rho(q)(h),qq^{-1})=\rho(q)(h)
なので、命題2.2 による準同型\rho と一致する。
(証明終)

命題1.3, 命題2.2, 命題2.3命題2.4を合わせると、問題Bの解が決定できる。

定理2.5
問題Bの解(の同型類)と、集合 \mathrm{Hom}(Q,\mathrm{Aut}(H)) の元は、一対一に対応する。
ただしここで \mathrm{Hom}(Q,\mathrm{Aut}(H))Q から \mathrm{Aut}(H) への群準同型(つまり、QH への群作用)の全体である。

対応は次の通り:

問題Bの解

\updownarrow命題1.3

半直積 H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\, Q

\downarrow命題2.2),\uparrow命題2.4

\mathrm{Hom}(Q,\mathrm{Aut}(H))

群の分解拡大まとめ 3.半直積の間の群同型 - junologyのブログ に続く)

群の分解拡大まとめ 1.分解拡大と半直積

はじめに

群の拡大(拡張)問題について、まとめる。

全三回。
群の分解拡大まとめ 2.半直積と群作用 - junologyのブログ
群の分解拡大まとめ 3.半直積の間の群同型 - junologyのブログ

動機として、最近研究室のセミナーで、\langle\,\textit{generators}\,\,\mid\,\,\textit{relations\,}\rangle みたいな形の群やモノイドが超重要なのだと教えられた。
そこで、そろそろ泥臭い群論から逃げるのをやめようと思った。

なお、僕は非専門(これは逃げの言葉か?)なので、専門の人が見たら嘲笑の対象なのは覚悟しています。

以上、能書きは良いので本題に入る。

完全列と拡大問題

まず、完全列の定義を確認しておく。

定義
準同型の列
\displaystyle\dots\overset{f}{\to}G\overset{f'}{\to} G'\overset{f''}{\to}\dots
が完全列であるとは、\dots=\mathrm{ker}\,f,\,\mathrm{im}\,f=\mathrm{ker}\,f',\,\mathrm{im}\,f'=\mathrm{ker}\, f'',\,\mathrm{im}\,f''=\dots が成立すること。
特に、
\displaystyle1\to G'\to G\to G''\to 1
の形の完全列を短完全列という。

本記事で扱うのは、次の問題である。

問題A(群の拡大問題)
H,Q に対して、短完全列
\displaystyle 1\to H\to G\to Q\to 1
を決定せよ。

(参考:Group extension - Wikipedia, the free encyclopedia

この問題の解に現われる G のことを、QH による拡大と言う。
もっとも、これ全部を扱うのは、僕の手に余るので、簡単な場合に的をしぼる。

問題B(群の分解拡大問題)
H,Q に対し、分解型完全列
\displaystyle 1\to H\to G\to Q\to 1
を決定せよ。

ここで、完全列
\displaystyle 1\to H\overset{i}{\to} G\overset{p}{\to} Q\to 1
が分解型完全列であるとは、写像 j:Q\to G が存在して、pj=\text{identity} とできることである。
この時、この j を、この完全列の splitting と呼ぶ(日本語知らない)。
分解型完全列なんて、大仰な言葉を使っているが、自然に QG の部分群として含まれており、p:G\to Q はレトラクションになっているということである。

ところで、群の拡大問題は「短完全列」を求めるものだから、完全列同士を比較する必要がある。
それは、次のようにして行う。

定義
二つの短完全列
\displaystyle 1\to G'_1\to G_1\to G''_1\to 1
\displaystyle 1\to G'_2\to G_2\to G''_2\to 1
の間の射とは、群準同型の組
\displaystyle f':G'_1\to G'_2,\,f:G_1\to G_2,\, f'':G''_1\to G''_2
で、次の図式を可換にするもの:
\displaystyle \begin{array}{ccccccccc}1&\to&G'_1&\to&G_1&\to&G''_1&\to&1\\ &&{\small f'}\downarrow&&{\small f}\downarrow&&{\small f''}\downarrow& \\ 1&\to&G'_2&\to&G_2&\to&G''_2&\to&1\end{array}
この時、各 f',f,f'' が同型ならば、(f',f,f'') を完全列の同型という。

問題A, 問題B で「決定せよ」というのは、短完全列の同型類がどれくらいあるか求めよ、ということ。
ただし、拡大問題を考える際には、H,Q は固定して考えているので、一般の短完全列の同型を考えるよりも、H,Q 上で恒等写像になるような短完全列の同型を考えるのが自然と思われる。
そこで、以下では、拡大の同型は完全列の同型 (f',f,f'') のうち、f',f'' が恒等写像のもののみを考えることにする。

半直積

分解型完全列について、加群の時には、これは本当に「分解」してしまうことと同値だったのだが、群ではこうはいかないし、一般の代数の圏でもそうはいかない。
もう少し言いかえたいので、半直積を定義する。

定義
G を群、HG正規部分群QG の部分群とする。
この時、GHQ の半直積(semidirect product)であるとは、G=HQ かつ H\cap Q=1 であること。
この時、G=H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\,Q と書く。

Semidirect product - Wikipedia, the free encyclopedia

注意したいのは、H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\, Q と書くと、あたかも H,Q だけによって一意に決まるように見えるけれど、そうではないということ。
なお、G=H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\, Q と書いた時には、GH,Q の「含み方」を込めて考えるものとする。
G=H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\, Q,\,G'=H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\, Q の時、例え GG' が群として同型でも、その同型が、部分群 H,Q 上で恒等写像になっているのでなければ、それは半直積の同型とは呼ばないことにする。
すなわち、G,G' の間の「半直積としての同型」とは、同型 f:G\to G'f|_H=\mathrm{id}_H,\,f|_Q=\mathrm{id}_Q となるもののことである。

何故これが、半「直積」なのか、一見するとわからないが、冷静に考えると、次の同値がわかる。

命題1.1
G を群、H,Q を部分群とする。
また、H正規部分群とする。
この時、GHQ の半直積であるための必要十分条件は、集合としての写像 \mu:H\times Q\ni (h,q)\mapsto hq \in G全単射であること。

(証明:必要性)
G=H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\,Q と仮定する。
\mu の像は HQ=G なので、全射は明らか。
今、\mu(h,q)=\mu(h',q') と仮定する。
つまり、hq=h'q' である。
この時 hh'^{-1}=q'q^{-1}\in H\cap Q=1 なので、h=h',q=q' が成立する。
よって、\mu単射でもある。

(証明:十分性)
\mu全射であることより、HQ=\mu(H\times Q)=G である。
また、g\in H\cap Q ならば、\mu(g,g)=\mu(1,g^2) であるが、\mu単射なので、特に g=1 である。
よって、H\cap Q=1 である。
つまり、GHQ の半直積になる。
(証明終)

命題1.1全単射によって、集合 H\times Q 上に、G の積を誘導することができるので、次の系を得る。

系1.2
G=H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\, Q とする。
この時、集合 H\times Q 上の積 \cdot:(H\times Q)\times (H\times Q)\to (H\times Q) が一意に存在して、
\displaystyle \mu:(H\times Q,\cdot)\ni (h,q)\to hq\in G
が同型となるようにできる。

誘導された積による群を (H\times Q,\cdot) とする。
すると、H\simeq H\times 1\subset H\times Q であるが
\mu( (h,1)\cdot(h',1) )=\mu(h,1)\mu(h',1)=hh'=\mu(hh',1)
なので、H\to (H\times Q,\cdot) は群の包含写像と見ることができる。
同様に、Q\simeq 1\times Q\subset H\times Q として、Q(H\times Q,\cdot) の部分群とみなせる。

なお、以下では群としての直積は用いないので、\times と書いても、必ずしも直積による群構造が入る訳ではなく、集合としての直積に、色々な群構造が入っているものとする。

この考え方は、後々重要になる。

半直積を用いると、群の分解拡大問題は、次のように言い換えられる。

命題1.3
群の分解拡大問題の解(の同型類)と、半直積 H \times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\, Q(の同型類)は一対一に対応する。

(証明)
\displaystyle 1\to H\overset{i}{\to} G\overset{p}{\to} Q\to 1 を分解型完全列とし、j:Q\to G を splitting とする。
i,j単射なので、H,QG の部分群と考えて良い。
この時特に、H=\mathrm{ker}\, p なので、H正規部分群である。

H\cap Q=1 を示す。
pj=\text{identity} より、jpj=j である。
これはつまり、jpQ 上で恒等写像であることを意味している。
よって、任意の集合 S\subset G に対して、S\cap Q\subset jp(S) である。
特に、p(H)=\mathrm{im}\,pi = 1 より、H\cap Q\subset jp(H) = j(1) = 1 が成立する。

G=HQ を示す。
HQ\subset G は明らかなので、逆の包含を示す。
任意に g\in G をとる。
q=p(g),\, h=gq^{-1} とおく。
q\in Q であり、また従って p(q^{-1})=q^{-1} なので、p(h)=p(g)q^{-1}=qq^{-1}=1.
すなわち、h\in\mathrm{ker}\,p = H である。
定義より明らかに g=hq\in HQ


逆に今 G=H\times\!\raisebox{1pt}{\tiny\mid}\,Q であると仮定する。
i:H\to G を包含写像、一意な表示 g=hqh\in H,q\in Q)に対して p(g)=q とすることによって、写像 p:G\to Q を定める。
p は群準同型である。
実際、H正規部分群であることより、g=hq,\,g'=h'q' ならば
\displaystyle gg' = hqh'q' = h(qh'q^{-1})qq'
であり、h(qh'q^{-1})\in H なので、p(gg')=qq' である。
この時、列
\displaystyle 1\to H\overset{i}{\to} G\overset{p}{\to} Q\to 1
が完全列になり、包含写像 j:Q\to G が splitting になることは明らかである。


以上の操作は互いに(同型の差を除いて)逆を与えている。
(証明終)

この対応は、一応分解拡大問題の解答とも言えるものだが、しかし今度は HQ の半直積の種類を決めなくてはいけないことになる。
それは、分解拡大問題自身と同じくらいには難しい問題なので、あまり解決した気にはならない。
次回以降、この対応を用いて、具体的に分解拡大問題の解が、集合 \mathrm{Hom}(Q,\mathrm{Aut}(H)) の元と一対一に対応していることを示していく。

群の分解拡大まとめ 2.半直積と群作用 - junologyのブログ に続く)

Hahn-Banach の拡張定理と選択公理

以下の記事を見直して思ったこと。

[1] 稠密な有理数に働いてもらう - junologyのブログ
[2] f(x+y)=f(x)+f(y) の時、f は何か? - junologyのブログ

選択公理 AC を否定して、ZF+「全てのA\subset\mathbb{R}が可測」が無矛盾であることを認めてしまうと、[1]の命題2と[2]を合わせて、Hahn-Banach の拡張定理(Hahn–Banach theorem - Wikipedia, the free encyclopedia)が ZF+「全てのA\subset\mathbb{R}が可測」のもとでは正しくないとわかる。

それだけ。

素数の平方根を付け加える話

引き続き学部時代のメモ放出。
体論の演習で話題になった命題を証明したやつ。

命題
a_1,a_2,\dots,a_n\in\mathbb{N} は、全て互いの素な2以上の自然数で、各  a_i は平方因子を持たないとする。
この時、\mathbb{Q}(\sqrt{a_1},\sqrt{a_2},\dots,\sqrt{a_n})/\mathbb{Q}2^n 次拡大である。

(証明)
n に関する数学的帰納法で示す。
n=1 の時は、a_1 が平方因子を持たないという仮定から明らかである。
n \le k について命題が真であったと仮定し、n=k+1 の時に命題が成立することを示す。
そのためには、L=\mathbb{Q}(\sqrt{a_1},\dots,\sqrt{a_k}) とおいて、L(\sqrt{a_{k+1}})/L が2次拡大であること、すなわち \sqrt{a_{k+1}}\notin L であることを示せば良い。
\sqrt{a_{k+1}}\in L と仮定して矛盾を導く。
L'=\mathbb{Q}(\sqrt{a_1},\dots,\sqrt{a_{k-1}}) とおく(従って、L=L'(\sqrt{a_k}) である)。
帰納法の仮定より、\sqrt{a_{k+1}}\notin L' であるから、\sqrt{a_{k+1}}\in L ならば、ある \alpha,\beta\in L' によって、

\sqrt{a_{k+1}} = \alpha + \beta\sqrt{a_k}

と書ける。
これより、次式が得られる。

a_{k+1} + \alpha^2 - 2\alpha\sqrt{a_{k+1}} - \beta^2a_k = 0

\sqrt{a_{k+1}}\notin L' より、\{1,\sqrt{a_{k+1}}\}L' 上線形独立なので、上式が成立するためには、特に \alpha=0 でなければならず、よって \sqrt{a_{k+1}}=\beta\sqrt{a_k} である。
従って \sqrt{a_ka_{k+1}}=\beta a_k\in L'.
ところが、a_1,\,\dots\,,\,a_{k-1},\,a_ka_{k+1} は、命題の仮定を満たすので、これは帰納法の仮定に反する。
(証明終わり)

これを用いて何が言えるかといえば、次が言える。

系1
素数列 p_1,\dots,p_n,\dots に関して、L_n = \mathbb{Q}(\sqrt{p_1},\dots,\sqrt{p_n}) とおくと、L_n/\mathbb{Q}2^n 次拡大.

系2
\mathbb{Q} の代数閉包を \bar{\mathbb{Q}} とすると、\bar{\mathbb{Q}}/\mathbb{Q} は無限次拡大.

演習で話題になったきっかけは、この系2が言いたかったらしい。
もっとも、系2だけならば、\mathbb{Q} に原始p乗根を加えていくだけで良い。