圏論から逃げない2. 集合論的な像と普遍性

前回は、「部分集合」の概念を一般の圏に拡張した。
今回と次回では、「像」の一般化を試みる。
今回は特に、集合論的に定義された「像」が、圏 \mathbf{Set} においてどのような圏論性質を持つのかを調べる。

\mathbf{Set} での像と、その universal property

過去にこんな記事を書いていた。
ここでの命題を少し整形すると、同様の証明で次の命題が示せる。

命題 1
\varphi:S\to T写像とし、写像 \psi:U\to T は次の条件を満たすとする:

\forall V\in\mathbf{Set}\,\forall \alpha,\beta\ :\ T\to V\,:\,\alpha\varphi=\beta\varphi\ \Rightarrow\ \alpha\psi=\beta\psi

この時、写像 \psi':U\to\varphi(S) が唯一つ存在し、\psi=i\psi' とできる。
ただし、i\ :\ \varphi(S)\subset T は包含写像である。

この命題 1は、写像の「像」が、圏 \mathbf{Set} での universal property で特徴付けられることを示唆している。
そこで、もう少し命題 1を詳しく見てみる。

まず、\psi\ :\ U\to T が条件式 \forall \alpha,\beta\ :\ T\to V\,:\,\alpha\varphi=\beta\varphi\ \Rightarrow\ \alpha\psi=\beta\psi を満たすとは、どういうことか。
\alpha\varphi=\beta\varphi となるような写像 T\to V の組は、次の集合の元として書ける:

\mathbf{Set}(T,V)\times_{\mathbf{Set}(S,V)}\mathbf{Set}(T,V)

ただし、\mathbf{Set}(T,V)\to\mathbf{Set}(S,V) はどちらも \varphi^{\ast}\ :\ \mathbf{Set}(T,V)\to\mathbf{Set}(S,V) である。
特に、colimit の定義を考えることで、これは次の集合 \mathbf{Set}(T\amalg_S T,V) と同一視できる。
すると、\alpha\psi\ :\ U\to V は、合成

\mathbf{Set}(T\amalg_S T,V)\overset{\mathrm{inj}_1^{\ast}}{\to}\mathbf{Set}(T,V)\overset{\psi^{\ast}}{\to}\mathbf{Set}(U,V)

による (\alpha,\beta) の像であり、同様に \beta\psi\ :\ U\to V

\mathbf{Set}(T\amalg_S T,V)\overset{\mathrm{inj}_2^{\ast}}{\to}\mathbf{Set}(T,V)\overset{\psi^{\ast}}{\to}\mathbf{Set}(U,V)

による (\alpha,\beta) の像である。
命題 1は、これらが一致する時、\psi':U\to\varphi(S) が唯一存在して \psi=i\psi' と分解することを主張している。
米田の補題より、米田埋め込み h^{\bullet}\ :\ \mathcal{C}^{\mathrm{op}}\to[\mathcal{C},\mathbf{Set}] が fully faithful であることに注意すると、以上の議論より、次がわかる。

系 2
自然な入射 j\ :\ \varphi(S)\to T は、圏 \mathbf{Set} においての次の同型を誘導する:

\mathrm{eq}\left(T\overset{\to}{\to}T\amalg_S T\right)\simeq \varphi(S)

勿論系 2は、直接示すことができる。
また、上での議論からわかるように、系 2命題 1と同じことを言っている。
しかし、集合論的な定義の「気持ち」を大事にしたかったので、上のような順序にした。

\mathcal{Set} での像の双対と、その universal property

さて、通常の写像の像については前節の通りであるが、集合論的には、もう一つ「像」と呼べるものがある。
\varphi\ :\ S\to T について、S を「\varphi による値が同じ」ことによる同値関係で割った商集合を S_{\varphi} と書くことにする。
自然な全射q:S\to S_{\varphi} とし、\tilde{\varphi}:S_{\varphi}\to T\varphi が誘導する写像とすると、\varphi は次のように分解する:

S\overset{q}{\to}S_{\varphi}\overset{\tilde{\varphi}}{\to}T

この分解に関して、命題 1の双対が成立する。

命題 3
\varphi:S\to T写像とし、写像 \psi:S\to U は次の条件を満たすとする:

\forall V\in\mathbf{Set}\,\forall \alpha,\beta\ :\ V\to S\,:\,\varphi\alpha=\varphi\beta\ \Rightarrow\ \psi\alpha=\psi\beta

この時、写像 \tilde{\psi}:S_{\varphi}\to U が唯一つ存在し、\psi=\tilde{\psi}q とできる。
ただし、q\ :\ S\to S_{\varphi} は自然な全射である。

(証明)
V=\{\mathrm{pt}\} とおくことで、自然な同一視 S\simeq\mathbf{Set}(\{\mathrm{pt}\},S) がある。
この時の \psi に関する条件より、次が成立する:

\forall s,t\in S\ :\ \varphi(s)=\varphi(t)\ \Rightarrow\ \psi(s)=\psi(t)

従って S_{\varphi} の商集合としての定義より、\tilde{\psi}\ :\ S_{\varphi}\to U が唯一つ誘導され、\psi=\tilde{\psi}q とできる。
(証明終わり)

「部分集合」と「特性関数」が互いに双対であるという考え方からすると、上の証明は、命題 1の証明の双対になっている。
命題 1の場合と同様な考察によって、S_{\varphi}圏論的な記述が求まる。

系 4
自然な全射 q\ :\ S\to S_{\varphi} は、圏 \mathbf{Set} において次の同型を誘導する:

\mathrm{coeq}\left(S\times_T S \overset{\to}{\to} S\right) \simeq S_{\varphi}

以上のように、S_{\varphi} は「像」の双対概念であると考えることができるので、S_{\varphi}\varphi の「余像」と呼ぶ。
これらを用いると、\varphi:S\to T は次のように分解する:

S\ \overset{q}{\to}\ S_{\varphi}\ \overset{\tilde{\varphi}'}{\to}\ \varphi(S)\ \overset{j}{\to}\ T

\mathbf{Set} においては、勿論 \tilde{\varphi}'全単射、すなわち同型であり、さらに q は strict epimorphism、j は strict monomorphism である。

次回は、この分解を一般の圏で構成する。