こひーれんとトポロジー その2 coherentな位相の強弱

前回、位相がcoherentであることの定義をしたが、Xに値を持つ連続関数の2つの族\cal{M},\cal{M}'に対して、Xの位相が同時に、あるいはどちらか一方のみとcoherentである場合というのがある。
例えば、\varphi\in\cal{M}を、\varphiにquotient mapを右から合成したものに置きかえたものを\cal{M}'とすると、\cal{M},\cal{M}'とcoherentであるための条件が一致することは明らかである。
そういった場合のcoherentの定義の条件を見ていたら、なんとなく位相の強弱を見ている気になってきたので、そんな観点で気付いた結果をまとめてみた。
応用として、k-spaceの条件を見直してみる。

coherentな位相を「入れる」

まずは、Xに値を持つ連続関数の族同士のcoherentであるための条件の比較を位相の強弱の比較にしてしまうことから始める。
どうすれば良いかと言えば簡単なことで、Xの位相として、新たに\cal{M}とcoherentなものを再定義してしまえば良いのである。

定義
集合としてのXの上に、次で位相を入れた空間を\mathrm{Coh}(X,\mathcal{M})と書く。
U:open in \rm{Coh}(X,\cal{M}) \Leftrightarrow \forall\varphi\in\mathcal{M} s.t. \varphi^{-1}(U):open

coherentの定義の時に注意したように、上でopenをclosedに替えても同値である。
本当はXを書かずに\rm{Coh}(\cal{M})と書いてしまっても良いのだけれど、暗黙のうちに値域を制限したり同相を合成したりするかも知れないから、表記の都合でこう書くことにしました。


k-ification
\mathcal{M}=\mathrm{Cpt}(X)Xのコンパクト部分空間(からの包含写像)全体とする。
この時、k(X)=\mathrm{Coh}(X,\mathrm{Cpt}(X)\,)と書かれ、これはXのk-化(k-ification)と呼ばれる。

tangent bundle
MC^\infty n-多様体\cal{A}をそのatlasとする。
p\in Mとその上の接空間T_pMについて、集合として\textstyle X=\coprod_p T_pMとおき、Xに密着位相を入れて位相空間と思う。
\cal{A}\ni\varphi:U\to\varphi(U)\subset\mathbb{R}^nに対して、\tau_{\varphi}:U\times\mathbb{R}^n\to Xを次で定める。
\varphi=(x^1,\dots,x^n)を座標とする時
\tau_{\varphi}(p,v)=\sum_{i=1}^nv^i\left.\frac{\partial}{\partial x^i}\right|_p
Xには密着位相を入れたので、勿論各\tau_{\varphi}は連続で、この時
TM:=\rm{Coh}(X,\{\tau_{\varphi}\mid\varphi\in\cal{A}\}\,)
Xの接束(tangent bundle)という。

困ったことに、もとの空間X\rm{Coh}(X,\cal{M})では空間として異なってしまっているので、圏論的には\cal{M}はもはや\rm{Coh}(X,\cal{M})を値域とする連続写像の族であるかどうかわからない。
しかし、そんなことは全く心配しなくて良い。

命題2-1
\cal{M}位相空間Xに値を持つ連続写像の族とすると、次が成立する。

  1. 集合としてのidentity map i:\rm{Coh}(X,\cal{M})\to Xは連続
  2. 集合としてのidentity map j:X\to\rm{Coh}(X,\cal{M})について、任意の\varphi\in\cal{M}に対してj\circ\varphiは連続
  3. \rm{Coh}(X,\cal{M})の位相は\{j\circ\varphi\mid\varphi\in\cal{M}\}とcoherent
  4. Xの位相が\cal{M}とcoherentならば、X=\rm{Coh}(X,\cal{M})

(証明)
集合としては、X=\rm{Coh}(X,\cal{M})かつi,j=identityなので、\rm{Coh}(X,\cal{M})への位相の入れ方から、いずれも明らかである。
(証明終)

証明になってない(汗
何にせよ、この命題を根拠に、大いに乱暴ではあるが「\rm{Coh}(X,\cal{M})の位相は\cal{M}とcoherent」と言ってしまうことにする。


k-ification(続き)
位相空間Xについて、命題2-1より、k(X)はk-spaceである。
実際、命題2-1-(1)によって\rm{Cpt}(\rm{Coh}(X,\cal{Cpt}(X)\,)\,)\subset\rm{Cpt}(X)であり、命題2-1-(2)より逆の包含も成立する。
さらに命題2-1-(3)より、\rm{Coh}(X,\rm{Cpt}(X)\,)の位相は\rm{Cpt}(X)とcoherentなので、これら結果よりk(X)はk-space。
ついでに命題2-1-(4)よりk(k(X)\,)=k(X)も得られる。

位相を比べる準備

以上によって、位相の強弱を比べる「舞台」ができたので、具体的な「道具」を準備する。
では、どのような道具が必要か。

2つの連続写像の族\cal{M},\cal{M}'について、明らさまに包含関係があったりすれば、位相の比較は容易(自明と言っても良い)のだけれど、一般にはそんな訳にはいかない。
例えば一般の空間について、その位相は任意の開被覆とcoherentであることは明かだし、前に書いた記事とかは、任意の閉集合による有限被覆(実は局所有限被覆で良い)にもcoherentであることを意味している。
勿論、完全に位相の強弱を確定させることは目標ではないけれども、しかし、包含だけ見ていてもあまり多くはわからないことが、この例からもわかる。
そこで思い出されるのは、2つの被覆があった時に、その2つに共通の細分被覆があるということである。
このことを写像に対して適用できるように一般化しよう。

定義
位相空間Xの位相は\cal{M}とcoherentであるとする。
この時、連続写像f:X\to Y\cal{M}による分割とは、連続写像の族
\{f\circ\varphi\mid\varphi\in\cal{M}\}
のことであり、\{f_{\alpha}\}\cal{M}によるfの分割である時
f=\bigcup_{\alpha} f_{\alpha}
と書く。

この表記の正当性は2回くらい後にやる予定。

次に、写像一つ一つに着目する。
\cal{M}とcoherentであるというのは、直感的に言えば、各\varphi\in\cal{M}が「要求する」十分な強さの位相を持っている、ということである。
そこで、写像同士の要求の強さを比べたい。
連続写像が値域に対して誘導する位相は、もとの空間の位相よりも強いという事実を参考にする。

定義
\varphi:Z_1\to X,\psi:Z_2\to X連続写像とする。
この時、連続写像f:Z_1\to Z_2があって\varphi=\psi\circ fとできる時、\varphi\psiより細かいといい、\varphi\preceq\psiと書く。

要求する位相の「強さ」というイメージだと、\preceqの向きが逆じゃないか、という意見はもっともなのだけれど、定義の前に述べた事に反するが「細かさ」の比較と思って向きを決めた。
包含写像に適用してみると、そんなに違和感はない。

さて、以上を統合して連続写像の族に対して、その比較を次で定める。

定義
\cal{M},\cal{M}'Xに値域を持つ連続写像の族とする。
任意の\varphi\in\cal{M}に対して、分割\textstyle\varphi=\bigcup_{\alpha}\varphi_{\alpha}\textstyle\{\psi_{\alpha}\}_{\alpha}\subset\cal{M}'があり、\varphi_{\alpha}\preceq\psi_{\alpha}とできる時、\cal{M}\cal{M}'よりも細かいといい、\cal{M}\preceq\cal{M}'と書く。
上でかつ\cal{M}\preceq\cal{M}'でもあるならば、\cal{M}\equiv\cal{M}'と書き、これらは同値であるという。


open coverings
\cal{U}=\{i_{\alpha}:U_{\alpha}\to X\}_{\alpha},\cal{V}=\{j_{\beta}:V_{\beta}\to X\}_{\beta}位相空間Xの任意の2つの開被覆(からの包含写像の族)とする。
この時、i_{\alpha\beta}:U_{\alpha}\cap V_{\beta}\to Xを包含写像とすると、任意の位相空間開被覆とcoherentであるという事実より、\textstyle i_{\alpha}=\bigcup_{\beta}i_{\alpha\beta}i_{\alpha}の分割であり、この時、包含写像
j_{\alpha\beta}:U_{\alpha}\cap V_{\beta}\to V_{\beta}
を用いてi_{\alpha\beta}=i_{\beta}\circ j_{\alpha\beta}と書けるので、i_{\alpha\beta}\preceq i_{\beta}であり、従って\cal{U}\preceq\cal{V}である。
この議論は全く対称なので、\cal{U}\equiv\cal{V}

強弱比較してみる

用意した道具を使ってみる。

命題2-2
\cal{M},\cal{M}'位相空間Xに値を持つ連続関数の族とする。
もし、\cal{M}\preceq\cal{M}'ならば、集合としてのidentity map
i:\rm{Coh}(X,\cal{M})\to\rm{Coh}(X,\cal{M}')
は連続である。

(証明)
命題1-1より、任意の\varphi\in\cal{M}についてi\circ\varphiが連続であることを示せば良い。
\cal{M}\preceq\cal{M}'であることより、分割\textstyle\varphi=\bigcup_{\alpha}\varphi_{\alpha},\{\psi_{\alpha}\}_{\alpha}\subset\cal{M}'連続写像f_{\alpha}があって、集合の間の写像として
i\circ\varphi_{\alpha}=\varphi_{\alpha}=\psi_{\alpha}\circ f_{\alpha}
最後の表示が連続であることは明らか。
さらに\varphiの分割の定義と命題1-1より、この時i\circ\varphiは連続である。
(証明終)

系2-3
\cal{M},\cal{M}'は命題1-2と同じとする。
\cal{M}\equiv\cal{M}'ならば、\rm{Coh}(X,\cal{M})=\rm{Coh}(X,\cal{M}')

系2-4
\cal{M},\cal{M}'は命題1-2と同じとする。
\cal{M}\subset\cal{M}'ならば、集合としてのidentity\rm{Coh}(X,\cal{M})\to\rm{Coh}(X,\cal{M}')は連続。

予想以上にきれいな結果が出た。

応用:k-spaceの条件

冒頭の導入で予告した通り、応用としてk-spaceであるための条件を見る。
k-spaceは、定義のままだと\rm{Cpt}(X)という膨大な集合に対して一々条件を確認しなければならないので、面倒臭い。
そこで、以上で得られた結果を用いて、k-spaceになるための条件を探す。

命題2-5
位相空間Xは、その位相があるコンパクト被覆\cal{K}とcoherentならば、k-spaceである。

(証明)
\cal{K}\subset\rm{Cpt}(X)から、系2-4より集合としてのidentity
\rm{Coh}(X,\cal{K})\to\rm{Coh}(X,\rm{Cpt}(X)\,)
は連続である。
一方、仮定よりX=\rm{Coh}(X,\cal{K})であり、命題2-2から次のidentityも連続。
\rm{Coh}(X,\rm{Cpt}(X)\,)\to X
以上より、X=\rm{Coh}(X,\rm{Cpt}(X)\,)=k(X)なのでXはk-space。
(証明終)

系2-6
コンパクト空間Kはk-space

(証明)
\cal{K}=\{id:K\to K\}とすれば、命題2-4より従う。
(証明終)

系2-7
CW comlexはk-space

次みたいのも、ほとんど自明なものとして証明できる。

命題2-8
局所コンパクト空間はk-space

(証明)
Xを局所コンパクト空間とすると、あるコンパクト被覆\cal{K}があって、
\cal{K}^{\circ}=\{Int K\mid K\in\cal{K}\}
X開被覆になっているようにできる。
明らかに\cal{K}^{\circ}\preceq\cal{K}なので、命題2-2より、identity\rm{Coh}(X,\cal{K}^{\circ})\to\rm{Coh}(X,\cal{K})は連続。
\cal{K}^{\circ}X開被覆なので、X=\rm{Coh}(X,\cal{K}^{\circ})であり、さらに命題2-1-(1)よりidentity\rm{Coh}(X,\cal{K})\to Xは連続。
よってX=\rm{Coh}(X,\cal{K})=k(X)を得て、Xはk-space
(証明終)

最初に証明した時にはちょっと苦労したか面倒だったのに、こうして見ると、ほとんど明らかだったんですね。