Godement 層の理論ノート0 前層

今、仏語で[God]*1を読んでいるのだけれど、意外と行間が多い。
なので、後半Theorie des Faiceauxの部分、行間を埋めてまとめてみる。

圏論の用語は前提にして、あと次の圏の基本的な性質も既知として書く。
\b{Sets}, \b{Sets}_{\ast}, \b{Top}, \b{Ring}, \b{Mod}_A, _A\b{Mod}
帰納極限についてはこちらも参照。

前層

以下、X位相空間とし、\cal{O}(X)Xの開集合全体をオブジェクト、包含関係を射とする圏を表すことにする(構造層ではない)。

定義
\cal{C}を任意の圏とする。
関手F:\cal{O}^{\it{op}}(X)\to\cal{C}、すなわち\cal{O}(X)から\cal{C}への反変関手のことを、X\cal{C}値の前層(presheaf)という。
特に\cal{C}=\b{Sets}の時が重要で、X\b{Set}値の前層全体とそれらの間のnatural transformationの成す圏を\b{Presh}(X)と書く。

上で、圏\cal{C}に対して\cal{C}^{\it{op}}はopposite categoryと呼ばれ、オブジェクトは同じだけれど、射が反対向き、つまり、
\rm{Hom}_{\cal{C}^{\it{op}}}(A,B)=\rm{Hom}_{\cal{C}}(B,A)
であるような圏である。
これによって、反変関手F:\cal{C}\to\cal{D}は共変関手F':\cal{C}^{\it{op}}\to\cal{D}と同一視できる。

また、\b{Presh}(X)は圏と何の断りなくいっているが、実はこれは非自明で、すなわち、X\b{Sets}値前層F,Gに対して、natural transformationF\to Gの全体が集合になるかは確認しなければならない。
しかし、一般に小圏\cal{C}から一般の圏\cal{D}への2つの関手F,Gの間のnatural transformation全体は
\prod_{A\in\cal{C}}Hom_{\cal{D}}(F(A),G(A))
の部分集合だと思うことができて、よって集合とみなせる。
このことから、\b{Presh}(X)は圏になるのである。

FX\cal{C}値の前層とする。
開集合の包含V\subset Uについて、F(U)\to F(V)は唯一なので、それをF^U_Vと書く。
x\in Xを空間上の点とし、\cal{O}(X,x)xを含むXの開集合全体とそれらの包含関係のなす圏とする。
\cal{O}(X,x)\cal{O}(X)の部分圏で、得に\cal{O}^{op}(X,x)は有向集合である。
もし\cal{C}帰納極限が存在するのなら、次が定義できる。

定義
x\in Xに対して、
F(x):=\rm{lim ind}_{\cal{O}(X,x)} F
Fxにおける茎(stalk)という。

特に冒頭に挙げた圏には全て帰納極限が存在することに注意。
U\in\cal{O}(X,x)についてF(U)から茎F(x)への入射をF^U_x:F(U)\to F(x)と書く。

前層の例

順序集合Aは、順序関係\leを射として圏と思えることに注意する。
例えば、自然数\bb{N}(0含む), 有理数\bb{Q}, 実数\bb{R}や、それらに無限遠点を付加した、\bb{N}_{\infty}, \bb{Q}_{\infty}, \bb{R}_{\infty}などがそのような圏である。

元の個数
U\in\cal{O}(X)Uの元の個数を対応させる関手F:\cal{O}(X)\to\bb{N}_{\infty}^{\it{op}}は前層になる。

被覆の重複
\cal{S}Xの任意の被覆とする。U\in\cal{O}(X)に対して、
F(U)=\sharp\left\{S\in\cal{S}\,\mid\, U\subset S\right\},\quad G(U)=\sharp\left\{S\in\cal{S}\,\mid\, U\cap S\neq\emptyset\right\}
とおくと、F:\cal{O}(X)\to\bb{N}_{\infty}G:\cal{O}(X)\to\bb{N}_{\infty}^{\it op}はともに前層である。各U\in\cal{O}(X)についてU\neq\emptysetならばF(U)\le G(U)である。Fの各点での茎が0でないことと\cal{S}の元の内部全体がXを被覆することが同値、さらに、Gの各点での茎が有限であることと\cal{S}が有限被覆であることが同値である

連続関数の層
X,Y位相空間とする。U,V\in\cal{O}(X)に対し、
F(U)=\{f:U\to Y:conti\},\quad F^U_V:F(U)\ni f\mapsto f|_V\in F(V)
とすると、F:\cal{O}(X)\to\b{Sets}は前層。特に、Yが離散空間の場合には、Fをconstant sheafという。

affine scheme
まだ理解できてないから略

もっとも、前層って関手ならなんでもござれなので、例なんていくらでも作れるので、あまりここで例を挙げても仕方がない。

*1:R.Godement, Topologie algebrique et theorie des faisceaux, Hermann(1998)