圏論から逃げない1. 部分, 商
今まで漠然と知っていた、圏論における集合論のアナロジーをまとめる。
以下、を一般の圏とする。
部分集合と商集合
部分集合や商集合のアナロジーを考えるためには、包含写像や商写像の一般化を考えれば良い。
定義
を の subobject とする。
- の subobject とは、monomorphism の 上の同型類のこと.
- の quotient とは、epimorphism の 上の同型類のこと.
ここで、monomorphism と が 上同型であるとは、次の四角形が可換になるような同型 が存在すること:
ただし、「同型類」という概念がきちんと意味を持つかどうかは問わないことにする。
epimorphism と が 上で同型であることも、同様に定義する。
これらの定義は、モダンには次のように書ける。
の射を、monomorphism, epimorphism のみにした部分圏をそれぞれ と書く(この表記は Reedy category の場合の真似で、多分一般的でない)。
に対して、圏 , をそれぞれ slice category, coslice category によって定義する。
次の圏の同値に注意する:
命題 1
圏 , の 各 morphism set は、高々一点の集合である。
(証明)
上に挙げた同型より、 について示せば十分である。
slice category としての定義より、 の object は、 と monomorphism の組 である。
また、射 は、 の射(すなわち monomorphism) で となるものである。
今、 を の射とする。
すると、 であるが、 は monomorphism なので を得る。
これが示すべきことであった。
(証明終わり)
一般に圏 に対し、その同型類を と書く。
すると、subobject は の元であるということができる。
quotient についても同様である。
上の命題より、これらはさらに豊かな構造を持つ。
系 2
subobject 全体のなすクラス 及び quotient 全体のなすクラス には、自然に半順序構造が誘導される。
Strict morphisms
純粋な集合や加群では、包含写像や商写像は単なる単射、全射であり、理念としては上の定義でも良さそうである。
しかし、上の定義では少し弱いところがあり、例えば monomorphism かつ epimorphism であっても、同型とは限らない。
また、位相空間のことを思い出すと、単射が必ずしも埋め込み写像とは限らないことに注意する。
このような、「埋め込み」の概念も、圏での議論に一般化できる。
議論を簡単にするため、 は pushout と pullback を持つ場合を考える。
この時、 には equalizer, coequalizer が常に存在することに注意する。
定義
は pushout, pullback を持つ圏とし、 を の射とする。
- が strict monomorphism であるとは、 がある の equalizer として書けることである。
- が strict epimorphism であるとは、 がある の coequalizer として書けることである。
勿論 strict monomorphism は monomorphism であり、strict epimorphism は epimorphism である。
例- の時、全ての単射、全射はそれぞれ strict monomorphism, strict epimorphism である。
- の時、 が strict monomorphism であることと、 が埋め込み写像であることと同値であり、 が埋め込みであれば、 は自然な全射 と定値写像とのイコライザーである。
- の時、 が strict epimorphism であることと、 が商写像であることは同値である。
- の時、 が strict monomorphism であることと、 が正規部分群の埋め込みであることは同値である(kernel は常に正規部分群であることに注意)。
- の時、全ての全射は strict epimorphism である。これは、準同型定理により が成立することによる。
これら例で挙げたように、strict monomorphism や strict epismorphism はそれぞれ包含写像、商写像と思って良い。
strict morphism によって、subobject, quotient のより強い概念が定義できる。
定義
とする。
- において、 で が strict monomorphism であるもの全体のなす full subcategory を と書く.
- の要素を strict subobject と呼ぶ.
- において、 で が strict epimorphism であるもの全体のなす full subcategory を と書く.
- の要素を strict quotient と呼ぶ.
定義からわかるように、圏同値 がある。
また、命題1より の morphism set も高々一点からなり、その同型類には順序構造が入る。
strict subobject, strict quotient は、ただの subobject, quotient よりも強い概念であり、集合論における「全射、単射」の類似がより良く成立する。
例えば、次が成立する。
命題 3
を の射とすると、次は同値
- は同型
- は strict monomorphism かつ epimorphism
- は monomorphism かつ strict epimorphism
(証明)
1⇔2 のみ示す(1⇔3 も同様)。
同型は の equalizer なので、1⇒2 は明らか。
今 は epimorphism であり、 の equalizer であると仮定する。
定義より だが、 は epimorphism なので、 を得る。
同一射の equalizer は同型なので、 は同型である。
(証明終わり)