ユークリッド空間上のsmooth isotopy類

あけましておめでとうございます。
本年も僕の戯言にお目溢し下さい。

新年早々、[Mil]*1の§6 Lemma 2の証明を補完してみるという、完全に自分のためだけの企画。

M,N多様体とする時、2つのC^\infty写像f,g:M\to Nが、滑らかにホモトピックであるとは、C^\infty写像H:I\times M\to Nがあって、次を満すこと。
f(x)=H(0,x),\,g(x)=H(1,x)\quad\forall x\in M
このH:I\times M\to Nf,gの間の滑らかなホモトピーという。
また特に、各t\in Iに対しM\ni x\mapsto H(t,x)\in N微分同相写像である時、Hを滑らかなアイソトピーと言い、f,gは滑らかにアイソトピックであるという。

「滑らかにホモトピー」「滑らかにアイソトピー」という関係は同値関係になる。
反射,対称律は明らかに成立し、ホモトピーのパラメータをその両端で任意階微係数が0になるように調節してやった上でつなぐことで、推移律も簡単に示せる。

本稿での目標は次の命題

命題

f,g:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^n微分同相写像とする時、これらが滑らかにアイソトピックであるための必要十分条件は、点0におけるヤコビ行列式の符号が一致すること

(必要性の証明)
H:I\times\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^nf,gの間の滑らかなアイソトピーとする。
t\in Iに対してH_t:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^nH_t(x)=H(t,x)で定める。
Hが滑らかであることから、この時、
\phi:I\ni t\mapsto\mathrm{\det}(J_0H_t)\in\mathbb{R}
は連続関数である。
ところが、各H_t微分同相写像なので\phi(t)\neq 0であり、よってJ_0f=\phi(0),\,J_0g=\phi(1)の符号は一致しなければならない。
(必要性の証明終)

十分性の証明には、いくらか準備を要する。
命題の仮定のもとで、h=g^{-1}\circ fとおく。
hのヤコビ行列式の符号は仮定より正、すなわち恒等写像のヤコビ行列式の符号と一致しており、もしもhと恒等写像の間の滑らかなアイソトピーH:I\times \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^nが存在すれば、g\circ Hf,gのあいだの滑らかなアイソトピーである。
従って、fのヤコビ行列式の符号は正、gは恒等写像として命題を示せば十分であることがわかる。
また、平行移動は明らかに恒等写像と滑らかにアイソトピックで、ヤコビ行列式を変更しないので、f(0)=0と仮定しても良い。

次の補題1は[Mil]からのまる写しに近い。

補題1

f:\mathbb{R}^n\to \mathbb{R}^n微分同相写像で、f(0)=0とする。
この時fは、0におけるヤコビ行列J_0 fの表わす線型写像に滑らかにアイソトピックである

(証明)
H:I\times \mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^nを次で定める。
[tex:H(t,x)=f(tx)/t\,(0

補題2

A\in\mathrm{GL}_n(\mathbb{R})\mathrm{\det}A>0であると仮定する。
すると、滑らかな写像F:I\to\mathrm{GL}_n(\mathbb{R})が存在し、F(0)=E_n,\,F(1)=Aとできる。
すなわち、Aは恒等写像に滑らかにアイソトピックである。

(証明)
nに関する数学的帰納法で示す。
n=1の時、A\in\mathbb{R}と思えば、仮定はA>0を意味するので、
F(t)=1+t(A-1)
とすれば、これは求める滑らかな写像である。

n\ge 2で、nより下の次元で補題2が成立していたと仮定する。
A=(a_{ij})とする。
この時、a_{11}=1として良い。
実際、必要ならば
\begin{pmatrix}\cos(\pi t)&-\sin(\pi t)&0&\cdots&0\\ \sin(\pi t)&\cos(\pi t)&0&\cdots&0\\0&0&1&\cdots&0\\\vdots&\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\0&0&0&\cdots&1\end{pmatrix}A
を考えることでa_{11}>0として良く、この時、
\begin{pmatrix}1+t(a_{11}^{-1}-1)&0&\cdots&0\\0&1&\cdots&0\\\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\0&0&\cdots&1\end{pmatrix}A
によって、結局1行1列成分が1の行列へ滑らかな道を構成することができる。
さらに、a_{11}=1ならば
G(t)=\begin{pmatrix}1&0&\cdots&0\\-ta_{21}&1&\cdots&0\\\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\-ta_{n1}&0&\cdots&1\end{pmatrix}A\begin{pmatrix}1&-ta_{12}&\cdots&-ta_{1n}\\0&1&\cdots&0\\\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\0&0&\cdots&1\end{pmatrix}
によって、結局Aは次の形の行列と滑らかにアイソトピックである。
\begin{pmatrix}1&0\\0&A'\end{pmatrix}\qquad A'\in\mathrm{GL}_{n-1}(\mathbb{R})
帰納法の仮定より、A'\mathbb{R}^{n-1}上の恒等写像と滑らかにアイソトピックだったので、滑らかなアイソトピーの推移性より、結局Aは恒等写像と滑らかにアイソトピックである。
(証明終)

補題1と補題2によって、命題の十分性は示されたことになる。

いやしかし、[Mil]を読んでいて、徐々に「滑らか」ということに対して嫌悪感を抱いてきたよ。
連続なら良いじゃん、と。
もっとも、連続可微分くらいでないと局所性質の特徴付けが難しいし、また、コンパクト領域上では、滑らかな関数による連続関数の一様近似ができるから、滑らかな場合の考察が一般化できるということも[Mil]を読んで改めて気付かされたことなので、滑らかという場合が重要であるということには同意するけれども。
しかし、滑らかということは利用するのは便利だけれども、逆に滑らかであることを示すには、時に本質的でない議論をしないといけないことがある。
例えば、ベクトル場のlocal flowの存在なんかは、完全に初等微分方程式論の範疇の問題だよね。
特にその初期値問題のsmooth dependencyの証明とか、2度とやりたくない。

とか、我侭を言う背景には、多変数関数の微積分の勉強をサボってきた僕の怠慢がある。
今からでも勉強しようとは、あまり思わないのだけれど...

*1:[Mil] J.Milnor, Topology from the Diferrensiable Viewpoint, 1965 Princeton University Press