f(x+y)=f(x)+f(y) の時、f は何か?

学部時代のノートがたまってたので、こっちにメモしなおし。

大学学部2年生の線形代数の演習で、次が出題された:


写像 f:\mathbb{R}\to\mathbb{R} が、任意の x,y\in\mathbb{R} について f(x+y)=f(x)+f(y) であるとする。
この時、f\mathbb{R}-線形写像か?

f(x+y)=f(x)+f(y)\mathbb{R} を加法群、つまり \mathbb{Z}-加群として見た時の準同型であることを意味している。
ここで、\mathbb{R}\mathbb{Z}-加群として、divisible(日本語では「可除」か?)であるので、自然に\mathbb{Q}-加群と思うと、f\mathbb{Q}-線形であることは直ちにわかる。
ところが、選択公理を知っている人がちょっと考えれば、これは \mathbb{R}-線形にはならないことがすぐにわかる。
それは、\mathbb{R}\mathbb{Q}-線形空間としての基底、いわゆる Hamel 基底を入れれば確認できる。

この条件 f(x+y)=f(x)+f(y) は、wikipedia によると「Cauchy の関数等式」と呼ばれているらしい(Cauchy's functional equation - Wikipedia, the free encyclopedia)。

では、Cauchy の関数等式を満たす関数 f:\mathbb{R}\to\mathbb{R} は、いつ\mathbb{R}-線形になるだろうか。
ε-δ式の議論とか、有理数が実数上稠密であることの位相的(あるいは解析的)意味を知っているならば、f に連続性を課せば良いことがすぐにわかる。
つまり、次が成立する:

命題1
f:\mathbb{R}\to\mathbb{R} は Cauchy の関数等式を満たすとする。
この時 f\mathbb{R}-線形であるための必要十分条件は、f が連続であること。

ところで、我々は、不連続な写像 \mathbb{R}\to\mathbb{R} を沢山知っている。
ならば、是非とも問の反例を具体的に構成してみたくなる。
だが、その望みを打ち砕く命題が、[1]*1の§6の問題になっていた。

命題2
f:\mathbb{R}\to\mathbb{R} は Cauchy の関数等式を満たすとする。
この時 f が連続であるための必要十分条件は、f が Lebesgue 可測であること。

(証明)
連続関数は Lebesgue 可測なので、十分性のみ示せば良い。
f は Lebesgue 可測関数であると仮定する。
\mu\mathbb{R} 上の Lebesgue 測度とする。
正の実数 \varepsilon>0 に対して

E_{\varepsilon}:=\left\{x\in\mathbb{R}\,\mid\,|f(x)|< \varepsilon\right\}

とおく。
f が Lebesgue 可測であるという仮定より、E_{\varepsilon} は Lebesgue 可測集合であることに注意する。

Claim 1: 全ての正数 \varepsilon>0\mu(E_\varepsilon)>0 である。
定義より明らかに、任意の自然数 n\in\mathbb{N} について E_n\subset E_{n+1} なので、次が成立する。

\displaystyle\infty=\mu(\mathbb{R}) = \mu\left(\bigcup_{n=1}^{\infty}E_n\right) = \lim_{n\to\infty}\mu(E_n) = \sup_{n\in\mathbb{N}}\mu(E_n)

特に、ある番号 N\in\mathbb{N} があって、\mu(E_N)>0 である。
一方、f\mathbb{Q}-線形であることに注意すると、有理数 q\in\mathbb{Q} について

E_{q\varepsilon} = \left\{x\in\mathbb{R}\,\mid\,|f(x)|< q\varepsilon\right\} = \left\{x\in\mathbb{R}\,m\mid\,|f(x/q)|< \varepsilon\right\} = q\cdot E_{\varepsilon}
(ただし、q\cdot E_{\varepsilon}=\left\{qx\,\mid\,x\in E_{\varepsilon} とする)

が成立しており、Lebesgue測度の基本的な性質より、次が成立する。

\displaystyle \mu(E_{q\varepsilon})=q\mu(E_{\varepsilon})

特に、\frac{1}{n}< \varepsilon となるように、自然数 n\in\mathbb{N} をとれば、E_{\frac{1}{n}}\subset E_{\varepsilon} なので、

\displaystyle \mu(E_{\varepsilon}) \ge \mu\left(E_{\frac{1}{n}}\right) = \frac{1}{nN}\mu(E_N) > 0

として、求める不等式を得る。
(Claim 1 の証明終わり)

Claim 2: 全ての正数 \varepsilon>0E_{\varepsilon} は原点の近傍を含む。
B_{\delta}=(-\delta,\delta)(開区間)と書くことにする。
背理法で示す。
E_{\varepsilon} は原点を内点を含まないと仮定する。
つまり、任意の \delta>0 に対し、B_{\delta}\setminus E_{\varepsilon}\neq\emptyset であると仮定する。
この時、数列 \{x_n\}x_n\in B_1\setminus E_{\varepsilon}|x_n| < \frac{1}{n} となるように選ぶことができる。
x_n\notin E_{\varepsilon} なので、|f(x_n)| \ge \varepsilon であることに注意する。
f は Cauchy の関数等式を満たすので、必要ならば x_n の符号を適当に付け直して適当な有理数倍することで、

\displaystyle\varepsilon\le f(x_n) < \left(1+\frac{1}{6n}\right)\varepsilon

として良い。
このような数列 \{x_n\} が矛盾を導くことを見る。
y_n=3n x_n とおく。
すると、次が成立している。

3n\varepsilon\le\displaystyle f(y_n) = 3nf(x_n) < \left(3n+\frac{1}{2}\right)\varepsilon

今、次の集合を考える。

E_{\varepsilon} + y_n:=\left\{e+y_n\,\mid\,e\in E_{\varepsilon}\right\}

もしも m\neq n ならば、(E_{\varepsilon}+y_m)\cap(E_{\varepsilon}+y_n)=\emptyset である。
実際、n>m として、e,e'\in E_{\varepsilon} に対し、f が Cauchy の関数等式を満たすことより

e+y_m=e'+y_n
\Rightarrow (e-e')=(y_n-y_m)
\Rightarrow\, f(e)-f(e')=f(y_n)-f(y_m) > \left(3(n-m)-\frac{1}{2}\right)\varepsilon

であるが、e,e'\in E_{\varepsilon} であることより、|f(e)-f(e')|\le 2\varepsilon でなければならない。
よって、e+y_m=e'+y_n\,\Rightarrow\,m=n が得られる。
今、Claim 1 より、N\in\mathbb{N}\mu(E_{\varepsilon}\cap B_N)>0 となるように選ぶことができる。
|y_n|=3n |x_n| < 3 なので、

(E_{\varepsilon}\cap B_N)+y_n \subset B_{N+3}

以上より、Lebesgue 測度の性質に注意して、次の不等式が得られる。

\displaystyle 2N+6 = \mu(B_{N+3}) \ge \mu\left(\coprod_{n=1}^{\infty} \left((E_{\varepsilon}\cap B_N)+y_n\right)\right) = \sum_{n=1}^{\infty} \mu(E_{\varepsilon}\cap B_N)

これは、\mu(E_{\varepsilon}\cap B_N)>0 に反しており、矛盾である。
(Claim 2 の証明終わり)

以上を用いて f が連続であることをε-δ論法で示す。
任意に x_0\in\mathbb{R}\varepsilon>0 を取る。
Claim 2より、ある \delta>0 が取れて、B_{\delta}\subset E_{\varepsilon} とできる。
すると、|x-x_0|<\delta なる任意の実数 x に対して、x-x_0\in E_\varepsilon なので、

|f(x)-f(x_0)| = |f(x-x_0)| < \varepsilon

が成立する。
よって、f は連続である。
(証明終わり)


ここから何がわかるかと言えば、冒頭の問の反例は、構成的には作れないということ。
というのも、命題1と命題2からわかるように、Cauchy の関数等式を満たすけれど \mathbb{R}-線形でない写像というのは、必然的に Lebesgue 不可測でなければならない。
ところが、我々が通常用いている ZF 集合論では、選択公理 AC を用いずには Lebesgue 不可測関数は構成できないことが知られている。

実はさらに、ZF+(全てのA\subset\mathbb{R}はLebesgue可測) は(ZFが無矛盾ならば)無矛盾であることまで知られている。
このような公理系においては、命題1と命題2は、冒頭の問に対する肯定的な証明を与えていることになる。
だから、冒頭の問は、正確には「ZF+ACのもとで」という文言を加えた方が良い(結論)。

*1:[1]松沢忠人, 原優, 小川吉彦「積分論と超関数論入門」,学術図書出版社 1996