ライトノベルと数学

まずは何も言わずに次の文章を読んで下さい。

A「ちょっと席を外したと思ったら、カップラーメンが空になってますが、食べたのはあなたですね、先輩!」
B「何故だ。例えば、Xあたりも食べようと思えば食べられただろう?(もぐもぐ)」
A「いや、Xは極度の猫舌です。僕が席を外していた短時間に間食することは不可能ですよね。」
B「では、Yならばどうだ?(ごっくん)」
A「Yは、そもそもまだ来てませんよ。」
B「そうだった。だが果たして、俺が犯人だという証拠でもあるのか?(ぺろぺろ)」
A「たった今喋りながら咀嚼してましたよね。」

ラノベ等では有りがちなシーンの切り抜きに見えますね。
勿論、僕が即興で作ったので、見苦しくて痛くて寒くはあるのですが。
では、次は?

A「どんな自然数nについても0以上1/n以下であるような数は、0しか無い!」
B「何故だ。例えば、正数εがとても小さければ、左辺に含まれるんじゃないか?」
A「いや、もしεが0でない正数ならば、kを1/εより大きくとってしまえば、1/kはεよりも小さい。どんな自然数nについても、という条件に反しますよね。」
B「では、εが負だったらどうだ?」
A「その場合は、そもそも0以上ではなくなってしまういます。」
B「そうだったな。だが果たして、0はその条件を満たすのかな?」
A「勿論。0は0以上だし、どんな自然数nでも1/nは正数なのだから、0は1/n以下ではありませんか。」

これはラノベでは滅多に見ないと思いますが、そういえば、結城浩の「数学ガール」って、こんな感じでしたっけ(あれはラノベ?)。
これが何かと言えば、\textstyle\bigcap_{n=1}^{\infty}\left[0,\frac1n\right]=\{0\}の証明を上の例文の書式で書き直しただけです。
(実は、下の文章を書き終えてから、上の文章を考えました)

何が言いたいのかといえば、両方同じじゃん、ということなんですよ。
推理モノの解決シーンと、数学の命題の証明ってほぼ同型じゃないですか?
僕は西尾維新戯言シリーズとか、杉井光神様のメモ帳とか、米澤穂信の古典部シリーズとか好きで、謎解きシーンを読むたびに思うのですよ。
それなのに、数学に対する世間の主な反応が「難解で意味不明」とか「嫌い」とか「日本語でおkwww」とかなるのは、どうしてなんでしょうね。
そもそも、大学の学部生が勉強する数学って、他のどの学科の専門科目よりも簡単だと思うのですが。
上に挙げた小説の謎に比べたら、はるかに簡単じゃないですか。
その一方で、神メモと古典部はアニメ化までされている(戯言シリーズも時間の問題だと思う)。
この辺、僕の中では不思議で仕方がありません。

しかし、実際に数学という学問に対する入門書って少ないという印象はあります。
まず数学をやる上では、集合論の知識がどの分野でも前提として要求されるのですが、本格的な集合論の教科書は、集合論の言葉に不慣れだとほぼ読めないというジレンマがあるのですよ。
逆に、数学を専門としない人向けに書かれた本では、ちゃんとした数学の言葉を解説したりはあまりしない気がします。
数学の核を真面目に扱っても、それに興味を持つ非専門の人がとても少ないことは想像に難くはありませんから。
そういえば、非数学科の後輩が、数学ガールが面白かったと言っていましたが、ああいう例は稀ではないでしょうか。

ならば、真っ向から数学を解説することは一旦諦め、単に数学に親しんでもらうことを考えましょう。
真っ向から解説するのではなく、知識をストーリーに絡めちゃうというのはどうでしょうか。
例えば、奈須きのこの「空の境界」「月姫」「Fate/stay night」に通ずる世界観って、多くの人が研究(?)してますよね。
研究するまではいかなくとも、物語を追うだけで、いつの間にか「魔術」とか「魔法」とかの知識がある程度身に付いているものです。
他にも、SFで最新科学の知識を覚えたり、一般の小説から雑学を仕入れるなんてことは、ざらにあることです。
理解しなくても物語を読むのに支障はないけれど、理解していると尚面白い、というような提示の仕方ができればベストだと思います。
誰かこんな調子で数学を題材にしたラノベ書かないかな。
魔法「fはaで連続」の呪文が\textstyle\forall\varepsilon>0\,\exists\delta>0\,:\,|x-a|<\delta\Rightarrow |f(x)-f(a)|<\varepsilonであるようなファンタジーとか。