凸包まとめ
凸包についてまとめてみたくなった。
実線形空間の部分集合が凸であるとは、任意のと任意の実数に対して、であることだった。
さて、が凸でなくても、を含むの凸集合というものを考えることができる。
今回問題にするのは、そのような凸集合の中でも最小のもの「凸包」
新しい発見とか無いけれど、きっと1ヶ月後には忘れるだろうから、メモ。
凸包の定義などなど
まずは凸包を定義しないと始まらないが、できれば構成的な定義が良い。
実際に集合が「決定できる」かはともかくとして。
定義
を実線形空間、を任意の部分集合とする。
をの凸包という。
名前から当然期待されることだけれど、凸包は次の性質を持っている。
命題1
を実線形空間、を任意の部分集合とする。
- はの凸集合
- を含むの任意の凸集合はを含む
(証明:1)
任意にを取る。
ただし、
である。
このとき、任意のに対して、
∴
(証明:2)
をを含む任意の凸集合とする。
に関する帰納法によって、次の形の元がに含まれることを示す。
… (*)
の時、上はなので、勿論
なるについて、(*)の形の元が全てに含まれていたと仮定する。
もしもならば なので、(*)はであるから、それはに含まれる。
もしもならば、帰納法の仮定より
また、はを含むので、であり、は凸集合であることより
よって、は(*)の形の元を全て含む。
(証明終)
命題1-2は、「を含む最小の凸集合が唯一存在」することを示している。
つまり、の定義として、「を含む最小の凸集合」を採用しても良い。
さらにいえば、
(ただし、はを含む全ての凸集合をわたる)
である。
右辺は「凸集合同士の共通部分は凸集合」であるという、ほぼ自明な事実から凸集合であり、またその最小性は明らかである。
よって、命題1-2 よりこの等式が得られる。
この辺の議論は、閉包に対するいくつかの定義を比べているのに似ている。
凸包はいくつの点で決定できるか?
上で定義した凸包だが、特にが有限次元の場合には、を決定する際に、頂点としての元をやたらに多く取り出しても仕方がないだろう、という予想がつく。
では、いくつの点を取り出して調べれば良いか。
において、異なる点の凸包(n-単体)が内部を持つことに注意すると、次の命題が予想される。
命題2
を次元実線形空間とすると、任意のについて
(証明)
右辺=とおく。
は明かなので、逆の包含を示す。
任意にをとる。
もしもならば、定義より。
一方の時、少くとも1つが 0 でない実数の組があって
とできる。
とおくと、
ここで、の順番を適当に入れかえて、かつ、
であると仮定しても良く、この時
これを繰り返すことで、を適当に並びかえた上で、あるによって、
とできる。
よって、
(証明終)
命題2によって、有限次元においての凸包が理解しやすいものになった。
特に、記号の上ではとても簡単に記述できる。
実線形空間の部分集合と実数に対して
という記号を導入する。
に対して、
とおくと、ならば、命題2によって
と書ける。
凸包と位相
以下、はHausdorffな実位相線形空間とする。
つまり、はHausdorffな位相を持つ実線形空間であり、和および実数倍は連続であるとする。
この時、の位相的な性質と、その凸包の位相的な性質がどのように関係しているか調べる。
位相線形空間の性質は別の機会にまとめるとして、基本的な事実を次に挙げる。
事実
位相線形空間について、
この事実をもとに、次がわかる。
命題3
について
- が開ならば、も開
- が有限次元の時、がコンパクトならば、もコンパクト
(証明:1)
任意にをとる。
ただし、
とする(であるようなを除けば良い)。
が開であることから、も開である。
さらに、和が開写像であることよりも開である。
明らかにはを含みに含まれる。
よってはの内点であり、は任意だったので、は開。
(証明:2)
とする。
写像を次で定義する。
は連続である。
すると
はコンパクト集合の像なので、コンパクト。
(証明終)
凸包の直径(2013/01/15 追記)
前節ではが実位相線形空間の場合を考察したが、この節では、さらに仮定を足してがノルム空間である場合を考える。
ノルム空間は実位相線形空間なので、前節の結果は全てこの場合でも成立する。
ノルム空間は距離空間なので、通常の距離空間と同じように、有界な部分集合に対して次のようにその「直径」を定義できる。
この節の主題はについて考察することである。
補題4
をノルム空間とする。
任意の点とに対して、以下の集合は凸。
(証明)
任意にとをとる。
従って
であり、は凸。
上の議論でをに置き換えれば、同様にしても凸。
(証明終)
ノルム空間における凸包で距離の議論をする上では、この補題4と命題1の組み合わせが便利。
命題5
をノルム空間とする。
任意の有界集合に対して、次の等式が成立する。
(証明)
なので、直径の定義から
は明らかなので、逆の不等式を示す。
任意にをとる。
凸包の定義からとが存在して
が成立するようにできる。
特に、必要なら係数で項を追加することによってかつとして良い。
とおく。
である。
とおく。
なのでであることに注意する。
各について、の定義より
であるが、命題4より、この右辺は凸なので、命題1より
だったので、つまり.
このことよりさらに
だから、
従って
以上より
で逆の不等式が示せた。
(証明終)