明日ルベーグ積分論の試験だよ

ルベーグ積分論とか言っておきながら、ほとんど関数解析の内容だと思う。
何が出題されるかってアナウンスされた内容はわりと覚えていないけれど、超関数が主だと思うし、一応Frechet空間の一般論から超関数を眺めたこともあるから、ま、なんとかなるでしょ、とか豪語してみるテスト。
\mathcal{D}(\mathbb{R}^N)上に定義されたセミノルムの族の定義さえ忘れなければ、万事無問題だろ。

気がかりなのは、L^p空間の完備性が出題されるらしいということ。
代数トポロジーばかりやっていて、空間が完備かどうかとか、あんまり気にする機会がなかったから、コーシー列を収束させる技術が劣化している可能性が多大。
中間試験でも類題が出されたんだけど、細かい不等式の名前とか忘れていて明記しなかったせいで減点とかあったし、今やったら二の舞になっちゃうね。
ということで、ガラにもなく復習してみようと思った。

Frechet空間と超関数

超関数なんていっても大したことじゃない。
要は、\mathcal{D}(\mathbb{R}^N)上の線形連続汎関数の全体ってだけの話。
勿論\mathcal{D}(\mathbb{R}^N)への位相の入れ方が重要になってくるのだが、それには帰納極限とかいうのを定義しないといけなくて、その正当化が面倒なので、多分講義ではやってない筈。
自主ゼミでそれを全部やったら、半セメスター分くらい消費したからなぁ。
ま、証明はともかくとして、理屈の流れだけメモっておきます。

以下、K=\mathbb{C},\mathbb{R}で、XK-線形空間とする。

定義

X上のセミノルムとは、\forall x,y\in X,\,\lambda\in Kについて次を満たす写像p:X\to\mathbb{R}のこと。

  1. p(x)\ge 0
  2. p(x+y)\le p(x)+p(y)
  3. p(\lambda x)=|\lambda|p(x)

ノルムの定義から、非退化性を除いただけ。
すなわち、x\neq 0でもp(x)=0かも知れないということ。
Euclid空間で、特定の座標成分への射影の絶対値を取る関数なんかをイメージするとわかりやすい。
以下、pX上のセミノルムとする時、x\in X,\,r>0に対して
[tex:W_p(x;r):=\{y\in X\,|\,p(x-y)

命題1.1

X上にセミノルムの列\{p_n\}_{n=1}^{\infty}があって次を満たすとする。

  1. \forall x\in X\setminus\{0\}\,\exists n\in\mathbb{N}\,\text{s.t.}\,p_n(x)>0
  2. \forall p_{i_1},p_{i_2},\dots,p_{i_r}\,\exists n\in\mathbb{N}\,\forall x\in X\,\text{s.t.}\,\max_{1\le k\le r} p_{i_k}(x)\le p_n(x)

この時、\{W_{p_n}(x;r)\,|\,n\in\mathbb{N},x\in X,r>0\}X上の位相の基になり、しかもそれによって定まる位相によりXは局所凸,Hausdorffかつ距離化可能な位相K-線形空間になる。

上の命題の証明はしないけれど、距離化可能性についてだけコメント。
上の状況で定まるキョリは
d(x,y)=\sum_{n=1}^{\infty}2^{-n}\frac{p_n(x-y)}{1+p_n(x-y)}

定義

命題1.1の仮定の状況で、X位相空間として完備である時、XをFrechet空間という。

実は、命題1.1の最後の方にあるXの位相的な性質に完備性を加えたものは、命題1.1の仮定のようなセミノルムの族が存在することの必要十分条件になっている。
ちなみに、\OmegaをEuclid空間上の開領域で、K\subset\Omegaをコンパクト部分集合とする時、C_K^{\infty}(\Omega)を台がKに含まれる\Omega上の滑らかな関数の全体とすると、これは次のセミノルムの族によってFrechet空間になる。
p_n(\phi)=\sup\{|\partial^{\alpha}\phi(x)|\,:\,x\in K,\,|\alpha|\le n\}
ただし、\alphaは多重指数。
それから、急減少関数の空間\mathcal{S}(\mathbb{R}^N)も、次のセミノルムでFrechet空間になる。
p_n(\phi)=\sum_{|\alpha|+k\le n}\sup\{(1+|x|^2)^k|D^\alpha f(x)|:x\in\mathbb{R}^N\}

ここで、Frechet空間上の線形汎関数について言及する。

命題1.2

(X,\{p_n\})をFrechet空間とする時、線形写像T:X\to Kについて、以下は同値。

  1. Tは、連続
  2. \{x_n\}\subset Xが収束列ならば\{Tx_n\}\subset\Omegaも収束列
  3. C>0,\,n\in\mathbb{N}が存在して\forall x\in X\,:\,|Tx|\le C p_n(x)

さて、以上でFrechet空間の基本はおしまい。
上を全部認めれば、上で例に挙げたような、C_K^{\infty}(\Omega)とか\mathcal{S}(\mathbb{R^N})とかいう空間については、一応セミノルムを用いて収束・発散を調べる事ができる。
Fourier変換の理論なんかだったら、これで十分。
ところが、超関数の空間はそうはいかない。
具体的に言えば、\mathcal{D}(\Omega)=C_0^{\infty}(\Omega)はFrechet空間にはならない。
無理に俗に言うsupノルムを導入しても、多分完備性が足りない気がする。
そこで導入するのが、位相空間帰納極限なるもの。

命題1.3

\{X_n\}_{n=1}^{\infty}をFrechet空間の列で、単射な連続準同型の列
X_1\to X_2\to\dots\to X_n\to\dots
が存在したとする。
この時、局所凸,Hausdorffな位相線形空間Xで、次を満たすものが唯一つ存在する。

  1. 連続単射準同型i_n:X_n\to Xが存在する
  2. 位相線形空間Yについて、写像X_n\to X_{n+1}と可換な連続準同型の組\{f_n:X_n\to Y\}が存在するならば、\{i_n\},\{f_n\}と可換な連続な準同型f:X\to Yが存在する

命題1.3によって定まるX\{X_n\}帰納極限という。
Xの位相の基は、次で定められる。
\{U\subset X\,|\,\forall n\in\mathbb{N}\,:\,U\cap i_n(X_n)\text{ is open, bounded and convex.}\}
X線形空間なので、従ってこの基は一様構造を定め、それによってXの完備性に言及できる。

命題1.4

XをFrechet空間列\{X_n\}帰納極限とする。
\{x_k\}_{k=1}^{\infty}\subset XがCauchy列であるための必要十分条件は、あるn\in\mathbb{N}について\{x_k\}_{k=1}^{\infty}\subset X_nであり、かつX_nの上でCauchy列であること。

命題1.4より、Frechet空間の帰納極限が完備であることがわかり、さらに、次が成立。

命題1.5

XをFrechet空間列\{X_n\}帰納極限とする。
線形写像T:X\to Kについて、次は同値

  1. Tは連続
  2. n\in\mathbb{N}に対し、T\circ i_nは連続
  3. X上の任意の収束列\{x_n\}_{n=1}^{\infty}に対し、\{Tx_n\}は収束列

これでようやく、超関数に言及することができる。
K_1\subset K_2^{\circ}\subset K_2\subset\dots\Omega上のコンパクト集合の増加列で、その全ての合併は\Omegaであると仮定する。
すると、実はC_{K_n}^{\infty}(\Omega)帰納極限として、C_0^{\infty}(\Omega)に位相が入る。
この上の連続線形汎関数が、いわゆる\Omega上の超関数なので、これで目出度く超関数の空間のフォーマルな構成ができたというわけ。

L^p空間の完備性

Frechet空間の理論に比べれば、こっちは全然簡単。
何故って、L^pはBanach空間だからね。

以下、1\le p<\inftyで、L^p上のノルムは単に||\cdot||と書く。

定理2.1 (Beppo-Levi)

非負値可積分関数の単調増加な列\{f_n\}に対し、
\int\lim_{n\to\infty}f_n dx = \lim_{n\to\infty}\int f_n dx

命題2.1

L^pは完備

(証明)
\{f_n\}\subset L^pをCauchy列とする。
Cauchy列の性質から、この部分列があるf\in L^pに収束することを示せば十分で、\{f_n\}||f_{k_{m+1}}-f_{k_m}|| < 2^{-m}となる部分列\{f_{k_m}\}を含むから、始めから
||f_{n+1}-f_n|| < 2^{-m}
が成立していると仮定して証明すれば十分である。

関数\{g_N\}を次で定める。
g_1(x)=|f_1(x)|
g_N(x)=|f_1(x)|+\sum_{n=1}^{N-1}|f_{n+1}(x)-f_n(x)|\,N\le 2
ここで、三角不等式と\{f_n\}に対する仮定から、次が成立。
\int g_N^p dx = ||g_N||^p\le(||f_1||+\sum_{n=1}^{N-1}||f_{n+1}-f_n||)^p\le (||f_1||+1)^p
よって、\{g_N^p\}は非負値可積分関数の列で、また、定義から明らかに単調増加なので、定理2.1(Beppo-Levi)によって次が成立。
\int \lim_{N\to\infty}g_N^p dx=\lim_{N\to\infty}\int g_N^p dx\le(||f_1||+1)^p
すなわち、g(x)=\lim_{N\to\infty}g_N(x)とおけば、g^pは可積分関数である。

g\in L^pなので、\text{a.e. }xに対して、g(x)は有限の値を取り、このようなxについて、m>n
|f_m(x)-f_n(x)|\le\sum_{k=n+1}^m |f_{k+1}(x)-f_k(x)|=g_m(x)-g_n(x)\quad\text{(*)}
\{g_N(x)\}がCauchy列であることと、この不等式から\{f_n(x)\}もCauchy列である。
従って、f(x)=\lim_{n\to\infty}f_n(x)として、\text{a.e. }xについて関数fが定義できる。

f\in L^pであることを示す。
g_N,gの定義から
|f_n(x)|\le g_n(x)\le g(x)
が成立しているので、Lebesgueの収束定理から
\int |f|^p dx=\lim_{n\to\infty}\int |f_n|^p dx\le ||g||^p<\infty
なので、f\in L^pである。

\{f_n\}L^pfに収束することを示す。
不等式(*)より\text{a.e. }x
|f(x)-f_n(x)|^p\le (g(x)-g_n(x))^p\le (g(x)-g_1(x))^p
であり、g-g_1\in L^pなので、Lebesgueの収束定理より
\lim_{n\to\infty}||f-f_n||^p=\int\lim_{n\to\infty}|f-f_n|^p dx=0
を得る。
(証明終)

途中で使う定理の名前はBeppo-Leviの定理とLebesgueの収束定理ね。
よし、覚えた。