超関数の収束とδ関数の表式

インフルエンザに罹ってしまった。
昨日まで、心身ともにほとんど布団から動けなかった。
ようやく思考できるようになったので、先週の記事で書き損なった(完全に忘れてた)、超関数の収束の話と、おまけにLebesgue積分論の試験で解けなかった問題を悔しいので2度と忘れまいとメモ。

超関数の収束の話

超関数の空間\mathcal{D}'には、奇をてらわずに、各点収束の位相、
すなわち\mathcal{D}'\subset \mathbb{R}^{\mathcal{D}}なる包含が誘導する位相を入れる。

\mathcal{D}'の完備性の証明の前に、まず、Frechet空間の双対空間は各点収束の位相で完備になることを示す。

さらにその前に、Frechet空間における有界性の定義って、先週言及してなかった気がする。
Banach空間と違って、Frechet空間には自然な距離構造が入る訳ではないし、その上、例えば先週定めたものにしても、線形構造と相性が悪い。
そこで、次のように定義してみる。

定義

Xを位相線形空間とする。
E\subset Xが有界であるとは、任意の原点の近傍Vに対して正数r>0が存在し、E\subset r Vとできること。

XがBanach空間だったら、上の定義は距離空間としての有界の意味と一致する。

また、E\subset Xが「有界である」という性質は、拡大/縮小や平行移動に関して不変。

もしかしたら先週暗黙のうちに使っていたかもしれないけれど、X,Yが位相線形空間である時、線形作用素T:X\to Yが連続であるための必要十分条件は、Tが任意の有界集合を有界集合へ写すこと。
なので、連続な線形作用素のことを有界線形作用素と呼びます。

さて、これでようやくFrechet空間の完備性の証明に入れる。

補題1(Baireのカテゴリー定理)

Xを完備距離空間とし、\{F_n\}_{n=0}^{\infty}Xの閉被覆とする。
この時、少くとも一つのn\in\mathbb{N}について、F_nは内点を持つ。

(証明)
F_nが内点を持たないと仮定してする。
まず、F_0\neq Xなのでx_0\in X\setminus F_0r_0>0があって、
B(x_0;r_0)\cap F_0=\emptyset
であるようにできる。
一般にn\ge 1に対して、F_nは内点を持たない閉集合なので、x_n\in B(x_{n-1},r_{n-1})\setminus F_nr_n>0があって、次をみたすようにできる。
B(x_n;r_n)\cap F_0=\emptyset
[tex:2r_n

命題2

XをFrechet空間、T_n:X\to \mathbb{R}を有界線形作用素とし、各点x\in Xで、\{T_n x\}\mathbb{R}上収束するものとする。
この時、
T:X\ni x\mapsto \lim_{n\to\infty}T_n x\in \mathbb{R}
とおけば、Tは有界。

(証明)
F_n=\bigcap_{k=0}^{\infty}T_k^{-1}\left([-n,n]\right)
とおくと、各T_nが有界(従って連続)であることからF_n閉集合で、また\{T_n x\}が収束列であることから、\{F_n\}Xを被覆する。
XはFrechet空間なので完備距離空間であり、従って補題1から、n\in\mathbb{N}があり、a\in F_nと、ある原点の近傍Vについて、(a+V)\subset F_nであるようにできる。

Tが有界であることを示す。
任意の有界集合Eを取る。
Eの有界性からr>0があって、E\subset rVとできる。
すると、a+E/r\subset a+V\subset F_nより
TE\subset r(-Ta+TF_n)\subset r(-Ta+[-n,n])
として、TE\mathbb{R}上有界である。
(証明終)

命題2から、Frechet空間の双対空間に各点収束の位相を入れると、完備であることがわかった。
さて、それでは本題だけれど、Frechet空間の帰納極限に各点収束の位相を入れると完備か?
しかし、先週の結果(証明はしてないけど)から、Xを単調増加なFrechet空間列\{X_n\}帰納極限とする時、T:X\to\mathbb{R}が有界であることと、各T|_{X_n}が有界であることは同値であることはわかっているので、結局命題2は、Frechet空間の帰納極限についても、証明を終わらせてしまっていたのでした。

よって、\mathcal{D}'は完備。
めでたしめでたし。

そして、先週の試験で解けなかった問題

\mathbb{R}^N上の超関数の意味で
\lim_{t\to +0}(4\pi t)^{-N/2}\exp\left(-\frac{|x|^2}{4t}\right)=\delta
であることを示せ。
ただし、右辺はDiracのδ関数。

今思えば難しくは無いし、試験を受験当時の自分にしてみても、解けないことはないと思うのだけれど。

悔しいから、もう少し一般に次の命題を示す。
負け惜しみだけれど、多分次の形で出題されてたら、解けてた。

命題3

f\in C(\mathbb{R}^N)\cap L^1(\mathbb{R}^N)は非負であり、
\int_{\mathbb{R}^N}f \,dx = 1
を満たすとする。
\varepsilon>0に対し、
f_{\varepsilon}(x)=\varepsilon^{-N}f(x/\varepsilon)
とおくと、\mathbb{R}^N上の超関数の意味で
\lim_{\varepsilon\to +0}f_{\varepsilon}=\delta

(証明)
任意の\phi\in C_0^{\infty}(\mathbb{R}^N)に対して、
\lim_{\varepsilon\to +0}\varepsilon^{-N}\int_{\mathbb{R}^N}f(x/\varepsilon)\phi(x) dx-\phi(0)=0
が示せれば良い。
fに対する仮定とf_{\varepsilon}の定義より、
\varepsilon^{-N}\int_{\mathbb{R}^N}f(x/\varepsilon)\phi(x) dx - \phi(0)=\varepsilon^{-N}\int_{\mathbb{R}^N}f(x/\varepsilon)\left(\phi(x)-\phi(0)\right) dx
であり、x=\varepsilon uとすれば、測度についてdx=\varepsilon^N duなので、上式はさらに
\int_{\mathbb{R}^N}f(u)\left(\phi(\varepsilon u)-\phi(0)\right) du
に等しい。
ここで、
f(u)\left(\phi(\varepsilon u)-\phi(0)\right)\le 2\left(\sup |\phi|\right)f(u)
で、f\in L^1(\mathbb{R}^N)なので、Lebesgueの収束定理から
\lim_{\varepsilon\to +0}\int_{\mathbb{R}^N}f(u)\left(\phi(\varepsilon u)-\phi(0)\right) du=\int_{\mathbb{R}^N}\lim_{\varepsilon\to +0} f(u)\left(\phi(\varepsilon u)-\phi(0)\right)du=0
以上より、求める結果が得られた。
(証明終)

問については、
f(x)=\pi^{-N/2}\exp(-|x|^2)
\varepsilon=2\sqrt{t}
とでもおけば良いね。

変にLebesgue積分を意識しすぎたのが敗因...orz